その笑顔に導かれ/エース
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海岸が近付くにつれ、男たちの怒号や銃声が大きくなる。心なしか地面も揺れている気がする。
今まで感じたこともないほどの恐怖に、一度足が止まる。
でも”海賊”をどうしてもこの目で見てみたい。
恐怖に好奇心が勝り、その足を少しずつ進めていくと、木々の向こうに岩場が見えた。
数十人の男たちが文字通り暴れ回っている。取っ組み合いをしている人、剣を振り回している人、銃を構えている人。
「……海賊だ…」
それ以上近付くことができず、木の陰に隠れながら遠目で見ていた。
驚いたのは、人数の差。
何人倒されても次から次へと溢れ出てくる男たちに対して、一方はずっと同じ10人ほどで応戦している。
どちらが強いかは、私の目から見ても歴然だった。
「だーっ!キリがねェな!!」
少人数海賊の方のひとりがそう叫んだかと思えば、右手を前へ振りかざす。
「火拳っ!!!」
突然拳から炎が上がったかと思えば、その炎は巨大化しながら殴打するように打ち出され、ものすごいスピードで敵を覆い尽くす。
攻撃を受けた方の影は瞬く間に消えていく。
その光景に、私は目を見張った。
距離を取っているつもりだったが、その熱はこちらにまで伝わってくる。
勝負はついたようだ。
これが”海賊”の戦い——
「おいっ!エース!!」
「やりすぎだ!!加減しろ!!」
炎を放った張本人の周りで、彼の仲間たちが焦っているように声を上げた。
その意味を理解してハッとする。
海風が強く吹き付けているせいか、彼が放った炎は、敵だけでなく林にまで燃え移っていた。
「うお!悪ィ!!さっさと消せ!!」
私もここにいては危ない。
街へ帰ろうと足元に置いていた荷物を手にした時だった。
「あっ!!」
熱い。
突然、足元が尋常じゃない熱さに襲われる。
見ればスカートの裾が燃えていた。
熱い、熱い。
燃えた木の枝が折れ、風に煽られて飛んできたようだ。
火を消そうと大きく仰いだり、地面に押し付けたりするが、消える気配のない炎はますます大きくなる。
全部このスカートが長すぎるせいだ。
このまま燃えた仕事着に火傷した足で帰ったら、何か事件に巻き込まれたと旦那様に気付かれてしまう。
最悪、仕事をサボって海賊を見に来ていたことがバレてしまうかも。
脱ぐしかない?
どうしよう…どうしよう……
——バシャッ
「ひっ!!」
突然だった。
勢いよく頭から水をかけられ、身を縮こませる。
おかげでスカートの火は消えた。けれど、びっしょりと濡れた服が冷たくて重い。
「………」
「………」
目の前に立ち、大きなバケツを手にこちらを見ている男性と目が合った。
「消えたな」
彼は白い歯を見せニッと笑った。
そんな得意げな笑顔を向けられたって…
髪から滴る水。濡れた服。スカートの裾は焼け焦げている。最悪だ。
火を消してくれたことにはお礼を言うべきだろうけと、多分この人はあの時腕から炎を放っていた張本人だ。
つまりこの火事の原因。
「大丈夫だったか?」
と、彼は突然私のスカートを捲り上げた。
「えっ、ちょっと!」
「悪ィ!火傷しちまってるな!」
私は焦ってスカートを抑えるけど、そんなことはお構いなしに目の前にしゃがみ込んで足元を覗き込む。
なんなの、この人。
「悪かった。この通りだ」
人のスカートを平気でめくったかと思えば、今度は礼儀正しく頭を下げてくる。
……なんか、変な人。
「いえ、ここにいた私もいけないので…」
「仲間に医者がいる。診てもらおう」
「わぁっ!!」
彼は私を抱えて走り出した。
断る隙もなく、抵抗することもできなかった。