その笑顔に導かれ/エース
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胸にぽっかりと穴があいたような毎日が虚しく過ぎていく。
こんなつまらない日々を、今までどうやって平気で生きてきたのかわからない。
溜まっていた新聞は全て処分した。
エースの顔を見るのが辛かったから。
「ご馳走様。美味しかったわ」
「………」
「ミドリ?」
「あ、失礼しました。片付けますね。奥様、天気が良さそうなので、今日は少しお庭に出ますか?」
「………」
「奥様?」
「いいわ。それよりも、今すぐ荷物をまとめなさい」
「……え?」
「ミドリ、あなたには幸せになってほしい。だから、あなたをクビにすることにしたわ」
突然の申し出に言葉を失う。
いつも柔らかく微笑んでる奥様のこんな厳しい表情は初めて見た。
「お、奥様、それはどういう……」
「最近のあなたは見ていられない。あなたは…ここにいてはダメになる。自由になりなさい」
「でも……」
「私は大丈夫。他にいい人を見つけるわ」
ふわりといつもの笑顔に戻った奥様の目尻から一筋の涙が光るのを見て、私も瞳に涙が浮かんだ。
ーーーーーーーーー
「ありがとうございます。お世話になりました」
「元気で」
大きな荷物を背に、最後に奥様に何度も何度も頭を下げて、私は屋敷を出る。
門を閉めて、もう一度最後に頭を下げた。
覚悟は決めた。
何があっても、もうここへ戻ることはない。
これは自分で選んだ道。
二度とエースと会えなくても
この先ひとりぼっちでも……
「…うそ……」
望みの薄い中、真っ先に噴水広場へ向かうと
その光景に目を疑った。
いつもの場所にエースの姿。
背を壁に預け座り込み、立てた膝に腕を乗せ、首は項垂れていて顔は見えない。
”待ちくたびれた”
そう思わせる姿だった。
涙が溢れるけど、かまうことなく彼の元へ走る。
彼だ。エースだ。
私がずっと会いたかった人。
「エース……エース?」
何度か名前を呼ぶけど反応はない。
目の前に膝をついて顔を近づけると寝息が聞こえてくる。こんなところで寝ていることが、彼らしいと思った。
「エース」
キュッと手を握ってみる。
「ん……」
顔が上がって、うっすらと目が開く。
「エース……」
その名前を呼ぶたびに、私は涙が溢れる。
ごめん。ごめんね。
いつまでも待たせてごめんね。
待っていてくれて、ありがとう。
「………夢か?」
虚ろな瞳が私を捉えて、そう呟いた。
「夢じゃない。ミドリだよ」
「…っ……」
ぱっちりと大きく目が開く。
瞬間、エースの手に重ねていた私の手は握られて強く引かれる。
「うわっ!」
そのまま前に倒れ、エースの胸に飛び込んだ。
「もう…来ねェかと思った……」
耳元でかすれた声が静かに響く。
「二度と会えねェのかと……」
強く抱き締められると、ドクンドクンとエースの鼓動を直に感じる。
「私もまたあなたに会いたかった」
強く強く、抱き締め合う。
涙はずっと止まらない。
会えない間に、こんなにも惹かれあっていた。
顔を上げてエースを見つめると
真っ直ぐに目と目が合う。
「ミドリ」「エース」
同時に名前を呼んで
「おれと一緒に来い」「私も連れていって」
2つの言葉が重なって
私たちは顔を見合わせて笑った。
…fin