山口忠と積極的な女の子
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
episode.04「推し」
苗字さんは、見た目は派手ではないし、どちらかというと、おとなしそうで
恥ずかしがり屋で
だけど、すごく積極的だと思う。
——これ、あの…山口君に
——本命です
いつも、思いもよらないことを言ってくる。
——山口君がいいの
真っ赤な顔してるくせに、真っ直ぐに視線を合わせてくる。
——私からしたら……一番かっこいいの
思い出して俺は、鼓動が速くなる。
どうしたって、彼女のことばかりを考えてしまう。
まるで彼女のトラップにでもかかってしまったみたいだ。
そしてまんまと、恋に落ちた……たぶん。
「ツッキー、俺って簡単なのかな?」
「……ちょっと質問の意味がわからないんだけど」
授業を終え、部活へ向かうため山口と月島はいつものように校舎を出た。
「あ、苗字さんだ」
ちょうど前方からやってくるのは、ずっと考えてしまっていた彼女の姿。
どうしたって立ち止まって反応してしまう。
「わぁ 山口君だ!」
声をかけられ、名前の方も山口に気がつき、驚いた声をあげながら駆け寄ってきた。
「うそ、どうしよ!こんな突然会えるなんて……えっと、どうしよっ!」
慌てた様子でキョロキョロとした後、校舎の窓に映る自分を見ながら、手で前髪を整える。
「あのね、委員の友達手伝って、花壇に水やりしてるんだ。だからその…待ち伏せしてたとかじゃないからね!」
「そんなふうに思わないって」
言い訳をするように手に持つジョウロを見せてくる。焦っているようなその様子がおかしくて、山口は笑った。
……やっぱり、なんかかわいいな。
「同じ1年生なのに、クラス違うとなかなか会えないな〜っていつも思ってたんだけど、こうやって会えたら会えたで、急だと焦っちゃうな。あ、月島くんも、こんにちは」
「……どうも」
「私大丈夫だった?間抜けな顔してなかったかな…顔熱いや」
「全然!大丈夫だよ」
ふふっと安心したように笑う。
本当は間の抜けた顔をしていたとしても、きっと優しい山口は否定してくれるだろう、と名前は思った。
「ごめん、部活行くとこだよね!嬉しくて喋りすぎました」
……本当、すごい素直だよな。
「練習頑張ってね!」
「うん。行ってくる」
「いってらっしゃい!」
”いってらっしゃい”って……かわいいな。
別れた後、チラッと後ろを振り返ると、水道でジョウロに水を注いでいた。
その表情は嬉しそうな笑みを浮かべている。
心がくすぐったい。
ちょっと声をかけただけだけど、すごく喜んでくれた。
俺なんかと会ったぐらいで……なんか……
「推しのアイドルと会えたみたいなリアクションだったね」
山口の心中を察したように、月島は遠慮なく露骨な感想を述べた。
「………」
「僕のついで感、すごかったんだけど」
「えー、そんなことないよ」
「あれ山口しか見えてないでしょ」
「もう恥ずかしいから言わないでよ」
「すごい愛されてるよね」
「ツッキーうるさい」
でもツッキーの言う通り。
すごく喜んでくれてたのが伝わった。
俺のこと……本当に好き、なんだな……
うわ!キモ!今のなし!今の俺キモイ!!
ぶんぶんと首を振る山口を見て、月島はニヤニヤと笑みが止まらない。
「山口!月島!おっさき〜!!」
と、2人の横をものすごい速さで日向が通り抜けた。
「おー。日向は今日も元気だなー」
「……あれ、さっきの苗字さんだっけ?1組って言ってたよね」
「うん」
「じゃあ日向と一緒じゃん」
「え?あ、そうか」
部室へと続く階段を駆け上がっていく日向を見上げる。
日向はいつも彼女と同じ教室にいるんだなぁ。
「………」
少しだけモヤモヤとした気持ちが胸に広がった。