影山飛雄と幼馴染の女の子
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episode.02 「初恋の願い」
思えば……
私の初恋はバレーボールに負けた。
家が向かいで、親同士が仲良くて、年も同じ。
生まれた時から一緒に育ってきて、いつもそばにいるのが当たり前な存在。
飛雄のことが大好きだった。
でも飛雄の頭の中は、いつもバレーボールでいっぱいで。
「とびお!あそぼ!」
「練習のあとな」
「また練習!?」
練習のない日は
「名前、公園行くけど来るか?」
「うん!行く!」
「トス練するから、ボール出ししてくれ」
「またバレー!?」
公園へ行っても、家の庭でも、常に飛雄はボールを持っていて、結局私は飛雄がひとり練習するのを眺めているか、練習の相手をさせられていた。
同じ小学校を卒業して、同じ中学へ入学しても、年齢が上がれば上がるほど、飛雄はバレーに夢中になっていって、そこに私の入る隙がないと思い知らされるようになった。
バレーなんかなくなればいいのに。
飛雄がバレーの天才なんかでなく、才能全くなしの下手くそならいいのに。
こっそりと、そんなひどいことを考えたりもした。
バレーよりも私を好きになればいいのに、とも。
でも、飛雄の試合を見に行くたびに
必死に、楽しそうに、私には見せたことのない表情でバレーに取り組む飛雄の姿は一番格好良くて
バレーのせいで私の初恋はうまくいかないのに
バレーのせいで余計に惚れていってしまった。
中3の春。
応援に行った公式戦で、飛雄は大好きなバレーボールで初めて壁にぶつかった。
きっとそれまでにも壁にはぶつがったことはあるのかもしれないけど、私が知る限りはそれが初めてだった。
飛雄がトスを上げた先には、誰もいなかった。
そのままベンチに下げられてしまった飛雄は、とても小さく頼りなくて痛々しい。
飛雄のあんな姿は初めて見た。
心が苦しかった。
試合後。
私は一緒に応援に行っていた飛雄の姉、美羽ちゃんと先に帰ってきたが、気持ちが落ち着かず、家の前の道路脇で飛雄の帰りを待つことにした。
「ミーティングとかあるだろうから、遅くなると思うよ。うちで待ってたら?」
「ありがとう美羽ちゃん。でも、ここで待ってたいの」
一番に出迎えて、顔を見たかった。
心配で心配でたまらなかったから。
「そっか……こっちこそ、ありがとね。あんなんでもさすがに凹んでると思うから、慰めてやって」
「……私なんかじゃ力にはなれないだろうけど」
「何言ってんの。名前にしかできない」
「………」
美羽ちゃんに髪をくしゃくしゃと撫でられて、涙が出そうになった。
「ずっとあいつのそばにいてやってよね」
向けられた笑顔にただ黙って頷く。
叶うなら私だってそうしたい
そう思った。
街灯が灯り始める夕暮れ時に飛雄は帰ってきた。
「お疲れさま」
「おう」
いつもと変わらない表情。
でも、ずっと見てきた私にはわかる。
きっと、私だけがわかる。
飛雄の心はひどく傷ついている。
「泣いていいよ!」
「あ?」
「飛雄の泣き顔なんて、小さい時からたくさん見てきてるから。遠慮しないで」
「……泣くかよ」
拗ねたように口を尖らせる。
「……っ、ううっ…」
ずっと堪えていたのに、強がっている飛雄を見たら、私の方が先に泣いてしまった。
こちらを見てギョッとする飛雄を思わず抱き締めた。
抱き締めたと言っても、その大きな体を包み込むなんて私にはできなくて、ただ抱き付いたような形だった。
それでもよかった。
少しでも飛雄の気持ちを軽くしてあげたかった。
「悔しいね、飛雄ぉ……」
ポロポロと溢れる涙が、目の前の飛雄のジャージに染みていく。
「私、悔しいようっ…っ…ううっ……」
涙でくしゃくしゃの泣き顔を、何度も飛雄の胸に擦り付けた。
きっと「なにお前が泣いてんだ」って言ってくるだろうと思ったけど、違った。
「……くそっ…」
吐息を吐くような、聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう吐き捨てながら、飛雄は私の背を力強く抱き寄せた。
結果、私が抱き締められる形になった。
トンと肩に頭を預けられ、私はそこに手を乗せる。
悔しい。悔しい。
バレーボールが大好きで、幼い頃からバレーボールに全てを費やしてきたのを私はずっと見てきた。
バレーボールが人生の全てなのに
バレーボールのためなら何でも犠牲にできるのに
飛雄ほど、バレーボールを愛してる人はいないのに
現実はあまりにも非情だ。
飛雄の腕の中で、彼の代わりに大泣きしながら、そのサラサラの黒髪を撫で続けた。
強く願った。
神様、お願いします。
飛雄にはこれからもずっとずっと
一生バレーボールをやらせてあげてください。
私の恋は
一生叶わなくていいから。