山口忠と積極的な女の子
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
episode.02 「次の日」
高一のバレンタインデーは生涯忘れられない日になると思った。
あの後、部活に集中するのに必死だった。
気付くとすぐにあの子が脳裏に浮かんで、顔が熱くなってしまうから。
生まれて初めてもらった”本命”のことで
頭がいっぱいになってしまうから。
潰れないよう、なるべく丁寧にカバンにしまい込んで、家族に見られないようそのまま部屋へ持ち込んだ。
それを机に置いて、ふぅーっと息を吐く。
丁寧にラッピングされた包みをそっと開いた。
一つ一つきれいに並んだトリュフ。
それぞれ丸い形はしていても、それは完全な丸ではなく所々歪な部分もあって、お菓子作りのことなど全くわからない自分でも、それが手作りだということはわかった。
小さなハートのチョコがトッピングされている物もあって、心がこそばゆくなる。
これが”本命”ってやつなんだ……
とりあえず右上の一つを摘んで、口に入れた。
「……おいしい」
甘い。すごく甘い。
恥ずかしいくらい、甘い。
一気に食べてしまうのが勿体無くて、蓋をして机の引き出しにそっとしまった。
次の日から、学校へ行くときの気分が変わった。
「どうしよツッキー。どっかにあの子がいるかも」
学校が近付いてくると、山口は月島の後ろに隠れながらキョロキョロと辺りを見回していた。
「チョコもらったくらいで動揺しすぎでしょ」
ちなみに月島は昨日、大きな紙袋2つにもらったチョコを押し込んでいて、持って帰るのも一苦労だし、先輩たちにはどやされるしで、今朝も少し疲れた顔をしている。
「どうせ俺はツッキーみたいに慣れてないよ!」
心がザワついて落ち着かない。
もしもばったり会ったりしちゃったら、どんな顔をすれば…
そう思った矢先だった。
「山口君、おはよう」
校門を通ったところで、彼女が目の前に現れた。
「あ、あ、うん!お、おはよ!おはよっ!」
「ちょっと落ち着きなよ。僕、先に行くから」
動揺と緊張でどもってしまう親友を恥ずかしく思い、月島はそそくさと行ってしまった。
置いていかないで…と視線を送ったが届かない。というか無視された。
「昨日はごめんなさいっ」
と、彼女から突然深く頭を下げられる。
「え、な、何が?」
「私、昨日すごく緊張しちゃってて、名前も名乗らなくて。帰ってから冷静になってよく考えたら、山口君は私のことなんて知らないな、と思って」
「あぁ、えっと、あの……うん、ごめん」
「いいの。ほとんど話したこともなかったし」
背筋をピンと伸ばし、彼女は山口の顔を真っ直ぐに見上げた。
「苗字名前です。1年1組です」
「苗字さん」
「…うん」
名前を呼ぶと、頬を緩ませて目を細める。
そのなんとも嬉しそうな表情に山口の方が照れてしまう。
「また校内で見かけたら、その…声かけさせてもらってもいい?」
「あ、うん。もちろんだよ」
「ありがとう」
一瞬で引き込まれそうになるくらいの、素直で屈託のない心からの笑顔に、山口は返事をするのも忘れた。
「あ、引き止めちゃってごめん。じゃ、またね」
「うん……また」
手を振られたので、軽く手を上げて返したら
彼女はまた嬉しそうに笑う。
昨日はただただ恥ずかしくて、何が何だかわからないままだったが
改めて正面からちゃんと顔を見たら……
「結構可愛いじゃん」
「ツッキー!!」
どこかに隠れていたのか、月島が隣に戻ってきていた。
「顔赤すぎ。好きなの?」
「ええっ!?そんなっ、どうかなっ……えっ、わかんない!どうかな!?」
「だから動揺しすぎだって」
今まで女子と深く関わったこともなかった。
恋とか、好きとか、そういうのは正直よくわからない。
でもあの子のことは…なんて言うか
もっと知っていきたいとは思う。
もっと、話もしてみたい。
1組の苗字さん。
初めて俺に、バレンタインチョコをくれた人。
”本命”の。