菅原孝支と内緒の彼女【完結】
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episode.14「秘密のおわり」
全国大会。
烏野高校は準々決勝まで勝ち進む快進撃を見せ、ベスト8という結果を残した。
名前は母親付き添いのもと東京へ行き、菅原の全ての試合を観戦した。
試合以外の時間は体育館内のロビーやカフェなとで勉強をし、母親との約束もきちんと守った3日間だった。
次の日には3学期が始まり、始業式ではバレー部の春高での功績が表彰された。
部を代表して澤村とともに舞台に立つ菅原を誇らしい気持ちで見つめる。
頑張ったね。お疲れ様。
遠目だったが、一度だけ目が合った気がした。
放課後、いつもの公園で待ち合わせた。
「孝支君」
「おう!お疲れ〜!」
菅原はいつものようにベンチに座る名前の隣に腰を下ろすと、大きく両手両足を伸ばした。
「あー!終わっちゃったなー!引退だー!」
清々しい笑顔を前に、名前の方が泣きそうだった。
「3年間お疲れ様でした」
瞳を潤ませる彼女の頭をポンポンと軽く撫でる。
「応援ありがとうな。ちゃんと見えてた。すげぇ元気もらった」
「試合行けて、頑張ってる姿、そばで見られて私も嬉しかった。あとね、これなんだけど…」
名前は鞄から小さな箱を取り出す。
「遅くなっちゃった、クリスマスプレゼント」
「マジ!?」
菅原は嬉しそうに受け取り、箱を開くと中身は黒の腕時計だった。
「うわ!かっこいい!!」
「大学生になるし、必要かなって思って」
「すっげぇ嬉しい!ありがとうな」
目をキラキラと輝かせながら、すぐさまそれを左腕に着ける。
「似合う?」
「うん、似合う」
見つめ合って、笑い合う。
木枯らし吹く寒空の下だったが、2人の周りだけは暖かい空気に包まれていた。
それからの日々はあっという間だった。
名前は相変わらず学校でも塾でも家でも勉強漬けの毎日で、部活を引退した菅原も勉強に励んだ。
春高は終わったが、2人で会える時間はほとんどなく、すぐに大学試験の日を迎え、合格発表までの落ち着かない日々は励まし合った。
そして、2人とも第一志望の大学に無事合格。
結果をメールで送り合い、互いに喜びと祝福を伝え合った。
2月下旬。
菅原は再び名前の家を訪れていた。
名前の母親はダイニングテーブルに並んで座る2人に温かい紅茶を出し、自分は2人の正面に座った。
「菅原君も第一志望合格したんですってね。おめでとう」
「ありがとうございます。あの、今日は改めてお願いに来ました」
菅原は額がテーブルに付きそうなほど頭を下げる。
「名前さんと付き合うことを許してください」
「お願いします!お母さん!」
隣で名前も同じように頭を下げた。
「4月からそれぞれ違う学校に通うことになるけど、俺はこれからも名前さんと一緒にいたいです」
菅原は顔を上げて、意志の強い瞳で母親を見つめる。
母親は優しい瞳でフッと笑った。
「全国大会、名前と一緒に見せてもらったんだけど、ベスト8なんてすごいわね。バレーのことはよく知らないけど、私、感動しちゃった。本当におめでとう」
「ありがとうございます」
「とっても良い子が名前のことを好きになってくれて嬉しいわねって、主人とも話していたの」
「えっ……」
「これからも娘をよろしくお願いします」
今度は母親の方が菅原に頭を下げた。
「ありがとうございます!!」
「ありがとう、お母さん!」
2人顔を見合わせ、笑顔になった。
「お願いがあるんだけど」
玄関を出たところで菅原は名前にそう切り出した。
「うん、何?」
「ご両親公認になったことだし、学校でも内緒にするの終わりにしたい。堂々と名前と一緒にいたい」
菅原の提案に少し考えた後、名前は頷いた。
「うん、ちょっと恥ずかしいけど…私もそうしたい」
「やった!じゃ、明日からな!一緒に登校したり、お昼食べたり、帰りも一緒に帰るぞ」
「うわ、楽しそう」
「あと、イチャイチャしたりな」
「ええっ、それはちょっと皆の前では…」
「楽しみにしてるわ!じゃ、またな!」
「ねぇ、イチャイチャはだめだよ!?」
菅原はイタズラな笑顔を向け、走って帰っていった。
ーーーーーーーーーー
次の日の朝。
「さっみー!」
「今夜雪らしいぞ」
「積もるかな」
「おはよー!」
いつものように窓際の席に集まる友人たちは、教室に入ってきた菅原に注目し、驚きの声をあげる。
「あれ!スガ!?」
隣には名前がいて、2人の手がしっかりと握られていたから。
「おいおい」
「まさか2人……」
「おう、俺たち付き合ってる」
あっさりとそう言ってのける菅原に、クラス中がどよめいた。
「なんだよー!いつの間に!」
「言えよなスガー!!」
「名前さんの好きな人ってお前だったのかよ!」
「でも2人お似合いだよね」
「おめでとう!名前!」
女子からは祝福の声があがり、名前は恥ずかしそうに頬を染めながら菅原に囁く。
「やっぱりちょっと恥ずかしいかも」
「そう?俺は嬉しいよ」
菅原はのんきに笑っていた。
この日を境に、2人は学校でも一緒に過ごすようになり、残り少ない高校生活を楽しんだ。
堂々とそばにいられる、満たされた毎日だった。
——2人きりで会えるのは
菅原の部活後に人気のない公園で週に一度だけ。
学校では、必要以上の接触や会話はしない。
登校も下校も一緒にすることはない。
メッセージのやりとりはいいけど、電話はしない——
そんな日々は終わりを告げた。
名前の首元には小さなハートのネックレス、菅原の手首には黒い腕時計がいつも着けられていた。
ーーーーーーーーーー
「名前、帰んべ」
「うん」
鞄を手に2人並んで教室を出る。
クラスメイトたちもすっかり見慣れた光景だった。
「今日は部活寄っていかないの?」
「引退した先輩が毎日のように顔出しに来たらうっとうしいだろ」
「そういうもの?」
「それに今日は駅前でパフェ食べてくって約束じゃん」
「そうだった!楽しみ」
靴を履き替えたところで、菅原は何か思い立ったように立ち止まった。
「あ!ごめん、やっぱり体育館寄っていっていい?少しだけ」
「もちろん、いいよ」
バレー部の後輩たちは今、宮城県の新人戦を前に新たなチームで練習に励んでいた。
体育館へ向かうと、中からはボールが弾む音が聞こえてくる。
コーチが来る前に自主練をしている様子だった。
「あ!菅原さんだ!」
開いている扉から覗く菅原の存在に日向が最初に気付くと、ワラワラと部員たちが集まってくる。
「スガさん!お疲れ様です!」
「今日も練習付き合ってくれるんスか!」
「いいや、違う」
「?」
「この子!俺の彼女!」
「え、あ、こっ、こんにちは」
菅原は名前の手を引いて自分の方に引き寄せ、その手を見せるように高く上げた。
名前は少し気まずそうに頭を下げる。
「「「ええーーー!!」」」
驚きの声をあげる部員たちを前に、菅原は満足げに微笑んだ。
「見せびらかしに来ただけ」
「「「えーー……」」」
こうして、内緒の関係は幕を閉じた。
…fin
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