菅原孝支と内緒の彼女【完結】
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episode.13「贈り物」
扉の開く音に反応し、玄関先まで出てきた母親は2人の顔を交互に見て唖然としていた。
「名前、やっと帰ったのね……あなたは…?」
「突然お邪魔してすみません」
菅原は一度深く頭を下げてから、真剣な表情で名前の母親を見据えた。
「菅原孝支といいます。名前さんのクラスメイトで、バレー部の副キャプテンやってます。えっと……名前さんとお付き合いさせていただいてます」
その言葉に母親はあんぐりと口を開け、名前を見た。
「お付き合いって…だって、受験が終わるまでは……」
「わかってる。約束を破ってごめんなさい」
名前は母親に向かって深く頭を下げた。
同じように隣で菅原も再び頭を下げる。
「すみません。俺は名前さんの人柄に惹かれています。告白して、付き合うことはできないと言われても諦められませんでした。ご挨拶が遅くなってごめんなさい」
「はぁ……そういうことね。だから急にバレーだなんて言い出して……」
母親はショックを隠せない表情で2人を見る。
菅原は申し訳なさそうに顔を歪ませながらも、懸命に話を続けた。
「すみません。失礼を承知で、俺からもお願いします。名前さんはずっと、誰よりも勉強を頑張ってきました。志望校にも必ず合格します。絶対に大丈夫です。だから…どうか、東京へ行かせてあげてください」
名前から見えるその横顔は、いつもの優しい菅原とは違い、凛々しく、毅然としていて、そんな姿に胸が高鳴った。
自分のことを心の底から信じてくれている。
それが伝わってきて、感極まる。
菅原の熱意に、母親も少し心を動かされているように見えた。
「でもねぇ…東京なんて…」
「せめて1日だけでもいいです。おれには彼女の応援が必要です」
「……うーん…」
「お母さんっ、お願いっ!」
もう一度、深く頭を下げる菅原の横で、名前も同じように頭を下げた。
2人を見て、母親が困ったようにため息を吐くと、開いていたリビングの扉から名前の父親が出てきた。
「いいじゃないか」
「お父さん…」
まさかの父親の登場に、菅原は今まで以上に緊張が走り、体の横で拳を強く握った。
「こうして男が頭を下げてきてるんだ。名前のために。立派じゃないか。許してあげなよ」
父の言葉に名前と菅原の表情は明るくなり、2人顔を見合わせた。
「でも……」
「高校3年間、いやそれよりも前から、名前がずっと勉強を頑張ってきたのはよく知ってる。数日くらい、好きなことをさせてあげよう」
父の静かな説得。
期待を込めた瞳で見つめてくる名前。
そしてその隣でもう一度「お願いします」と頭を下げる菅原を前に、母親は渋々納得した。
「……わかったわ。本当に、試合中以外はちゃんと勉強するのよ」
「ありがとう!お母さん!」
「ありがとうございます!」
「お父さんも、ありがとう!」
名前と菅原は顔を見合わせて笑った。
「だけど……東京に行くことは許しても、彼氏なんてまだ許しませんからね」
続いた母親の言葉に、再度2人に緊張が走る。
「……わかりました。それはいずれ許してもらえるよう、努力します」
菅原は両親に真正面から向き合い、力強くそう言うと、もう一度深く頭を下げる。
「今日は帰ります。夜分に失礼しました」
「娘のためにわざわざありがとう。全国大会、応援しているよ」
「はいっ!ありがとうございます!」
最後に父親にそう言われ、緊張していた気持ちが少しだけ軽くなった。
「じゃあ、帰るな」
「うん、ありがとう。またね」
最後に名前に笑顔を向け、菅原は玄関を出て行った。
「名前、東京のこと、ちゃんと話すわよ」
「うん」
父母に続いてリビングへ上がったとき
「あ!!」
名前が声をあげた。
「上着!忘れてた!返してくる!」
菅原が肩にかけてくれた上着のことを忘れていた。
名前は自分のコートを羽織り、菅原の上着を手にすぐさま後を追った。
背後から聞こえてきた足音に振り返り、菅原は嬉しそうに笑う。
「ごめん!これ!ありがとう!」
「おう。次に会えた時で良かったのに」
「うん、でも大事な大会前に風邪引いちゃったら困るし」
「ありがとう」
「ついでに駅まで送っていけるしね」
「それはいいよ。もう暗いからだめ」
「いいの。送らせて?」
「……じゃ、あそこの角までな」
「え、短い…」
「それ以上家から離れると、俺が心配だから」
「……わかった」
辺りはすっかり陽は暮れていて、街灯が灯り、照らされた2人の影が並ぶ。
歩きながら菅原は名前の手を握った。
じんわりと溶け合うお互いの温度を特別に感じ、名前は自分のよりもひとまわり大きなその手をギュッと握り返した。
「今日、本当にありがとう。おかげで東京行けるよ」
「おう!俺も応援来てもらえるの、すげぇ嬉しいわ」
「うん。それにね、なんか孝支君……お母さんの前で堂々としてて、すごく格好良かった」
「マジ?惚れ直したべ?」
「………うん」
「ちょ、冗談だよ。照れるなよ。こっちまで恥ずかしくなるわ」
「だって本当だもん」
両親に臆することなく、意見を主張する菅原の姿は凛々しくて、ただ頭を下げることしかできない自分を完全にリードしてくれていた。
そんな横顔に終始ときめいていたし
今も隣にいるだけで胸がドキドキする。
今までよりも、もっと好きだと感じる。
「本当に、格好良かった」
「正直すっげー緊張したけどな」
「そんなふうに見えなかった」
「そう見えないように頑張ったからな」
得意げに笑う菅原を見て、名前も楽しそうに笑った。
「はい、ここまで」
「えっ、もう?」
気が付けば、約束の曲がり角に着いていた。
ここでさよならすれば、また会えない毎日が始まる。
離れたくない…
こんなにも強くそう感じたのは初めてだった。
あからさまに表情が暗くなる名前の目の前に、可愛くラッピングされた小箱が差し出された。
「これ、クリスマスプレゼントな」
「!」
思いもよらない事態に、名前は固まる。
「え、ちょっと待って、今日って…」
「24日。イブだよ。まぁ学校はそんな雰囲気じゃなかったけどな」
勉強だけに集中していたせいで、こんな大イベントをすっかり忘れていた…
名前はショックを受けながら小さな箱を受け取った。
「ありがとう。どうしよう!私、何も……」
「いいよ。特に約束もしてなかったし、俺も今日渡せると思ってなかったから」
「でも用意してくれてたんだ……」
「まぁ、渡せたら渡そうとは思ってた」
「……開けていい?」
「おう」
丁寧に包みを剥がし、箱を開けると、中にはネックレスが入っていた。
小さめで可愛らしいハートモチーフがキラリと光る。
「可愛い……ありがとう」
「うわ、なんか…こういうの照れるな」
「うん。でも、すごく嬉しい」
顔を綻ばせてネックレスを見つめる表情が可愛くて、自分の彼女のことが愛おしくてたまらなくなり
菅原はスッと頬に手を伸ばした。
「キスしていい?」
背を屈ませて、顔を近づける。
「えっ、わっ、待って…」
「ここじゃダメ?」
「えっ、えっと…」
慌てふためく名前の返事も待たず
優しく口付けをした。
「………」
「………」
唇が離れてからも、少しの間見つめ合う。
真っ赤になった名前が可愛くて、さらに愛おしい気持ちが溢れる。
もう一度したい衝動を抑えて、菅原はグッとその場で一度伸びをした。
「よし!じゃ、帰るわ。名前も気をつけてな!」
「あ、うん。今日は本当にありがとう」
「また連絡する」
「私も」
笑顔を向け合って、それぞれ帰路についた。
離れた後も2人お互いのことを想いながら、空を見上げる。
——誰よりも応援してるからね
——絶対優勝するから、見ててな
