菅原孝支と内緒の彼女【完結】
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episode.11「会いたい」
2人きりでは会わないと決めた数日後、席替えが行われた。受験に向けテストが増えたことから、出席番号順で座ることとなった。
名前と菅原は隣同士ではなくなり、話をするどころか、顔を合わせることも、もう滅多にない。
毎日寝る前に行われる数回のメールのやりとりだけが、2人を繋げていた。
『今帰った。疲れたー。これから勉強』
『お疲れ様。明日数学小テストだよ』
『そうだった!眠いけど頑張るわ』
内容は、そんな他愛のない話ばかり。
”会いたい”や”寂しい”という言葉は使わなかった。特別そう決めたわけではないが、いつの間にか暗黙のルールとなっていた。
なぜなら、言ってしまえば余計に会いたくなって、寂しくなってしまうから。
だけど、時々
『大好きだよ、名前』
『うん、私も大好き』
そうして、気持ちを伝え合うことで寂しさを紛らわせていた。
——10月の終わり。
春高の宮城県代表決定戦。
烏野高校バレー部は、決勝まで駒を進めていた。
もちそん烏野は先生たちを含め大盛り上がり。
当日は多数の生徒が応援に行く中、名前は模擬試験のため、行くことができなかった。
とても悲しかったし、悔しかった。
親に叱られることを覚悟で、試験を休んでしまうことも頭をよぎった。
でもきっと、菅原は自分のためにそこまですることを望んでいない。
孝支君も決勝を全力で戦っている。
私は私のやるべきことに全力を出し切る。
そう割り切って、試験に集中した。
『勝った。全国行く』
試験が終わり、真っ先に携帯を開くと送られてきていたメッセージ。
絵文字も何もない淡白な文。
菅原が優勝したことを一刻も早く伝えたくて、気持ちが舞い上がった状態でメッセージを送った様子が目に浮かび、名前の瞳には涙が浮かんだ。
すごい。本当にすごい。
県内1位になるなんて。
本当に、たくさんたくさん頑張ったんだね。
これまで堪えていた気持ちが溢れ出たように、指が勝手に動いた。
『会いたい』
送信ボタンを押して間も無く、携帯が震える。
『俺も』
バレー部のミーティングが終わるのを待って、いつもの公園で待ち合わせをした。
ーーーーーーーーーー
夕方。
いつものベンチで待つ名前の元へ、息を切らした菅原が現れ、隣に座った。
待ち侘びていた、2人きりの時間。
学校では毎日同じ教室にいたけど、目と目が合ったのは久しぶりだった。
「なんか、久しぶりだな」
「そうだね。ちょっと緊張してる」
「確かに」
「あの……春高終わるまで会わないって、私から言い出したのに、ごめん。どうしても、直接顔見て言いたくて」
そう切り出しながら、菅原の方へ体を向けて、改めて顔を見る。
「優勝おめでとう」
また、泣きそうになってしまう。
「おう!ありがとう」
菅原の方は嬉しそうに笑った。
あぁ、久しぶりの孝支君の笑顔だ…
と、名前の表情も和らいだ。
「プレッシャーになっちゃうといけないから、言わなかったんだけど…」
「ん?」
「私、夢だったんだ。東京に行くの。孝支君の応援に。大きな体育館で、大勢の人の前で、孝支君が活躍するの。私は応援席から、手を叩いて声援を送るの。『私の彼氏、宇宙一かっこいい』って、心の中で叫ぶの」
恥ずかしそうに笑って、名前は続ける。
「本当は大きく声に出して叫びたいんだけどね」
無邪気に笑う彼女を前に、急に愛おしさが込み上げてきて
菅原は腕を伸ばし、自分の方へと抱き寄せた。
「会いたかった」
優しく胸に抱く。
トクントクン、と速く脈打つ鼓動が名前にも伝わってきた。
「ずっと、こうしたかった」
耳元で静かな声が響く。
「私も」
名前も腕を回し、菅原の体に密着するように抱き付いた。
いつまでも抱き締め合って、互いの温もりを深く胸に刻み込む。
これまでの寂しさを埋めるように。
これからまた、頑張れるように。
