月島蛍と転校生女子【完結】
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episode.05「そんな気持ち」
「ツッキー、行ける?」
「うん」
授業を終え、部活へ行く支度を済ませて山口とともに教室を出ると、背後から声をかけられた。
「ねぇねぇ、忠」
声の主は名前だった。
「今日、忠んち行ってもいい?部活の後」
「え?別に良いけど、遅くなるよ?」
「何時でも大丈夫!私も部活だし。月島君も来て!」
「何で?」
「いいことがあるから」
得意げな笑顔を前に、月島と山口は不思議そうに顔を見合わせる。
「じゃあ、二人ともまた後でね!」
一方的にそれだけ言い残し、名前は廊下の先で彼女を待つ友人の元へと行ってしまった。
部活後。
「いいことって何だろうね」
「さぁ」
チームメイトたちと別れた後、月島は山口と共に彼の家へと向かった。
門の前では、紙袋を手に下げた名前が2人を出迎える。
その服装は制服ではなく私服なので、一度家に帰宅し、着替えてきたようだ。
「2人ともお疲れ様!」
「母さんに言って中で待っててもよかったのに」
「うん、でもそろそろかな〜と思って」
山口が門を開け中に入ると、名前も慣れたようについていった。
月島はふと隣の家を見る。表札には苗字の文字。これまで山口の家には何度も来ているが、気にしたことがなかった。
全体的に白を基調とした洋風の家に車2台は停められそうな広さの駐車場。
庭は小さく控えめだが、手入れが行き届いている。
月島は彼女の雰囲気に合っている家だと思いながら眺めていた。
知ってたけど、本当に隣なんだな。
2階の角の窓…あそこが苗字さんの部屋?
それとも、その隣の窓のところか?
「何してんのー?ツッキー」
不意に玄関から山口に呼ばれ、我に返った。
無意識に、彼女の家を見ながら彼女のことを気にしていた。それを自覚し、急に恥ずかしくてたまらなくなる。
「今行く」
気持ちを悟られないよう、ポーカーフェイスを作って家の中へと入った。
「今日の部活でショートケーキを作ったの」
山口の部屋に入るなり、持っていた紙袋を床に下ろすと、名前はそこからケーキの箱を取り出しテーブルに乗せた。
「へぇ」「すごいじゃん!」とそれぞれ反応する2人を前に、名前は自信がなさそうに渋々と箱を開いた。
「一緒に登校してくれたお礼がしたくて、先輩に教えてもらいながら作ったんだけど、思ったより難しくて……」
箱からスライドされて出てきたケーキは、お世辞にも”美味しそう”とは言えない見た目だった。
ホールケーキのはずだが、円形は崩れ、なんとも言えない形になっている。デコレーションされている生クリームはとてもいびつで、所々中のスポンジが見えてしまっていた。
いちごは手に入らなかったようだが、マンゴーやキウイが飾られていて、彩りは華やかだ。
「これがケーキ?」
月島は冷たく言い放った。
悪意はなく、これが彼の素直なリアクションだった。
「一応そうです……」
叱られた子どものようにげんなりと頭を下げながら名前がそう答える。
「せっかくだから食べようよ!」
山口はスッと立ち上がり、一度1階へ下りると、ナイフとフォーク、取り分け皿を手に戻ってきた。
「見た目はアレだけど、食べたら美味しいかもしれないし」
ケーキを切り分けながらそう言う山口の言葉は、励ましているつもりだろうが、名前の胸にグサリと刺さる。
だが、切り分けたことでだらりとクリームが流れ、さらに形が崩れていく様を見て、何も言い返すことができない。
月島は渡されたケーキを一口ぱくりと口に入れた。
「……どう?」
「……まぁ、食べられなくはない」
「うん、ちゃんとケーキの味がするよ」
続いて口にした山口はそう言ってニッコリと笑う。
2人に釣られ、名前も恐る恐る口に入れた。それは自分が思い描いていた味にはほど遠く、再びガックリと首をもたげた。
「ああー…失敗しちゃったな……」
「でも初めてだったんだしさ!」
「まずスポンジがうまく膨らんでない。慣れるまでは市販の使ったら?あと、クリーム少し柔らかすぎたんじゃない?デコレーションはまぁ、練習すればどうにかなると思うから」
「……冷静な分析ありがとうございます」
「ツッキーはケーキに厳しいから」
そんなやりとりをしながら、3人はそれぞれ一切れずつ食べ切った。
「次は月島君に美味しいって言ってもらえるもの作るから、また食べてくれる?」
残ったケーキを箱に戻しながら名前は月島を見た。
「……別に、いいけど」
「よし!」
嬉しそうに笑う。
そんなに喜ぶことじゃないでしょ…と思い、月島は目を逸らした。
「山口、苗字さんと付き合わないの?」
先に家に帰って行った名前を門の前で見送った後、月島は山口にそう質問した。
「えぇ!?そんなこと考えもしてないよ!急にどうしたの?」
月島からの唐突な質問に山口は困惑する。
「家も隣だし、今日の感じだとよく行き来してるのかと思った」
「まぁ子どもの頃はお互いの家で遊んだりもしたけど、名前ちゃんが戻ってきてからは今日が初めてだったよ」
「ふーん」
山口は嘘を言うような人じゃないし、仮に2人が幼馴染以上の関係であろうが、月島がどうこう言う問題でもない。
でも、確認をしておきたかった。
親友である山口の気持ちと、自分の気持ち。
「意識もしないの?」
「意識って?」
「わかんないけど……普通は幼馴染が数年ぶりにあんな感じで戻ってきたら、そういう雰囲気になるもんじゃないの?」
「あんな感じ?うーん……可愛くなってってこと?」
「……そこまで言ってない」
「ツッキー、もしかして名前ちゃんのこと気になってる?」
「……山口、うるさい」
「そんな大声出してないよ」
「顔がうるさい」
2人が幼馴染以上の関係ではないとわかって、ホッとしている。
つまりは、自分は彼女に対して特別な感情を抱いている。
そんな気持ち。
