月島蛍と転校生女子【完結】
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episode.04「なんか、くすぐったい」
次の日には山口が復活し、3人で登校した。
相変わらず名前はお喋りで、山口と楽しそうに話をしている。月島は話を振られれば相槌を打つ程度で、ほとんど会話に参加しなかった。
——月島君と一緒に行きたかっただけ
彼女のあの時の言葉を頻繁に思い出してしまう。
素直な言葉に真っ直ぐな笑顔でこられるのは、反応に困るので正直苦手だ。
今日は山口がいてくれて助かった、と思った。
そして金曜日。
来週から朝練が始まるので、3人で登校するのは今日が最後。
「ツッキー、おはよ!」
「月島君、おはよー!今日が最後だね。一週間お世話になりました。寂しくなるね」
「別に」
朝から真っ直ぐに見上げ、向けてくる笑顔。
寂しい、という素直な言葉。
……やっぱり、少し苦手だ。
「でも、ちゃんと友達もできたから安心してね」
「特に心配してないけどね」
歩き出すと、ニコニコと隣を歩いてくる。
2日前は遠慮がちに後ろを歩いていたのに、この数日で距離が大分近くなったように思う。
拾ってきた仔犬が急に懐いた時って、こんな感じなんだろうな…と月島は思った。
「製菓部にも入部が決まったの。来週から参加させてもらうんだ」
「よかったね」
ふと視線を感じて反対側の隣を見ると、そちらでは山口がニコニコと微笑んでいた。
「……何?」
「昨日も思ったけど、俺がいない間に2人仲良くなったんだなーと思って」
「なってない」
「でもツッキーが女子と話してるとこって、あまり見たことなかったしさ」
「ねぇ、私も”ツッキー”って呼んでもいいかな?忠みたいに」
「やだ」
「何で?」
「理由なんてないよ。なんかやだ」
2人に挟まれ、大型犬と小型犬を同時に散歩させる飼い主の気分になってくる。
……喋らない分、まだ犬の方が楽だろうな。
と、密かにため息が漏れた。
ーーーーーーーーーー
名前はこの数日でクラスメイトともすっかり打ち解けていた。
あの素直な物言いと、いつも明るく楽しそうな彼女の人間性がそうさせるようだ。
「月島君」
そして時折りこうして、月島の肩をツンツンして声をかけてくる。
教室内で気軽に声をかけてくるのは、山口以外には彼女だけだった。
「なに?」
「今日ね、帰りに友達とお茶しに行くんだけど、おすすめのお店ある?」
「なんで僕に聞くの」
「スイーツの美味しいお店行きたくて。月島君、色々詳しそうだなって」
事前に調べていたのか、名前は携帯を開いて店情報が掲載されたページを見せてきた。
「今ね、2つのお店で迷ってて……まずは駅前のここ」
「あぁ。ケーキはまぁ普通だけど、シュークリームが美味しい」
「シュークリーム!食べたい!」
名前の目が輝く。
商品情報のページにシュークリームを見つけ「絶対食べよ」と笑った。
さらに、違う画面を開いて月島に見せてくる。
「こっちの、毎朝前を通るこのお店は?学校から一番近いケーキ屋さん」
月島はチラリと画面を見るなり容易に答える。
「ハズレはないけどイートインスペースが狭いから、友達と行くなら駅前が良いんじゃない」
「そっか!そうする!」
「うん」
「やっぱり詳しいんだね。月島君に聞いて正解」
視線を合わせて笑いかけてくる。
月島はその笑顔を直視せず、視線を伏せながらぶっきらぼうに答えた。
「別に」
「名前ちゃーん、次、移動教室だよー」
「はーい!今行く! じゃ、ありがとうね」
友達に呼ばれ、名前は席を離れていった。
月島も時計を見て、教科書を手に教室を出た。
「名前ちゃん、よく普通に話しかけられるね」
距離はあるが、前方を歩く名前と友人たちの話し声が耳に入った。
自分の話題であることは、すぐにピンときた。
「クールっていうか……なんか冷たくて、話しかけづらい空気なんだよね」
「わかるわかる。怒ってるのかなって」
クラスの女子にそう思われていることはわかっていたし、話しかけて欲しいとも思っていないので、月島自身は特に気にしていなかった。
「そんなことないよ。確かに少しそっけないけど、本当は優しいと思うよ?」
名前の言葉を聞いて、思わず立ち止まる。
「………」
友人の意見を否定し、月島を庇った彼女の言葉は少し意外だった。
「今日行くお店もね、いいところ教えてもらったよ。シュークリームがね……」
自分のペースで話を続ける彼女に、友人たちも引き込まれるように盛り上がっていて、そのまま廊下の先を曲がっていった。
「………なんなの…」
真っ直ぐに向けてくる笑顔とか
素直すぎる言葉とか
距離感とか
彼女のことは、やっぱり苦手だ。
いや、違う。苦手というより……
なんか、くすぐったい。
