月島蛍と転校生女子【完結】
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episode.03「意味わかんない」
待ち合わせ場所に山口は今日もいない。
「おはよう」
ひとり待っていた名前は、月島が来るなりニッコリと笑った。
「……一応聞くけど、道は覚えた?」
月島からの鋭い問いに、笑顔はすぐに消えた。
「……えっと、いまいち自信がないといいますか…」
「覚えてないね」
「……ごめんなさい」
「行くよ」
しぶしぶ月島が歩き出すと、名前は小走りで駆け寄り隣を歩いた。
「言っておくけど」
「はい」
「僕も山口も、来週から朝練が始まるから、付き合えるのは金曜までだからね」
「わかりました!」
「………」
「月島君、私ね」
伝えておきたいことを伝え、会話を終わりにしたつもりだったが、名前の方から話が始まり、またお喋りが始まった…と月島は内心思った。
「製菓部に入ることにしたよ」
が、続いた言葉に月島の表情が変わる。
そんな部活があったことを初めて知った。
何よりショートケーキが好物で、甘いものには目がない月島には気になる話題ではあった。
「苗字さん、お菓子作り得意なの?」
初めて月島から名前に投げかけられた質問だった。それだけスイーツに対しての興味が強いことが伺えるが、名前の方はあっけらかんとしていた。
「ううん。やったことない」
「………」
「食べるのが好きなの」
「………」
「活動は週に一回で気楽だし、好きなの作って良いんだって」
「………」
いくら食べるのが好きだからと言っても、まず作らなきゃならないこと、この人ちゃんとわかってる?
お菓子作りを甘く見てない?
これ以上話を聞いていると、色々と突っ込みたくなりそうなので、月島は無視を決め込んだ。
「私の1番好きなケーキはね、ザッハトルテ」
が、その一言にだけは言い返したくなってしまった。
「邪道だね。ケーキといえばショートケーキでしょ」
そう言うと、名前の表情がパッと明るくなる。
「月島君も好きなの!?ケーキ」
大きな瞳をキラキラと輝かせてくる。
しまった…と思った。
「……別に」
「意外!ショートケーキね!部活で作ったら食べさせてあげるね」
「いらない」
「ショートケーキといえばイチゴだよね。あれ?イチゴって、今の時季売ってる?いちごが無理だったら…キウイとか?マンゴーでもいいかも」
月島が自分と同じように甘いもの好きだったことがよほど嬉しいのか、話が止まらなくなってしまった名前。
「喋ってないで、道覚えなよ」
「あ…はい……」
月島の一言で瞬時に大人しくなった。
「………」
「………」
隣を歩きながらも、静かな時間になった。
住宅街を抜け、大きな道路に出てからも
2人の間に会話はない。
学校へと続く坂が前方に見えてくる頃には、辺りに何人も同じ制服を着た生徒たちが歩いていた。
と、突然名前が立ち止まり、ポツリと呟く。
「月島君、ごめんなさい。正直に言います」
「?」
「本当は私もう、道覚えてるの」
「……は?」
「初日は本当に自信がなかったんだけど、その日の帰りに忠と確認して、覚えられたの」
「……じゃあ、なんで覚えてないフリ…」
「月島君と一緒に行きたかっただけ」
ニッコリといたずらな笑顔で見上げてくる名前に、不意を突かれ一瞬言葉を失った。
「っ……意味わかんない」
怪訝そうな表情でそう言うと、月島は坂を登り始める。
名前は彼を追いかけながら話を続けた。
「小学2年生の時、私がまだこっちに住んでたときね?学校帰りに走ってたら転んじゃって、膝から血が出て座り込んでたの。その時にたまたま通りかかった月島君が絆創膏をくれたんだけど、覚えてない?」
「僕が?」
「恐竜の絵が描いてあった」
「……あぁ…」
名前に絆創膏をあげた記憶は消えていたが、その絆創膏のことなら覚えていた。
家族で行った博物館のお土産コーナーで、自分の小遣いで買った絆創膏だ。とても気に入っていて、いつも持ち歩いていた。
「それから月島君と仲良くなりたいと思ってたんだけど、すぐに転校が決まっちゃって」
「ふーん」
「だから再会できて嬉しかったの。騙すような真似してごめんなさい」
「……まぁ、別に」
「でも、こうやって何年も経ってから仲良くなれるなんて、感激してる」
「別に仲良くはないよね」
「………」
固まってしまった彼女の方を見ると、明らかに落胆した表情で肩を落としている。
少し冷たくしすぎた?
「……まぁ金曜までは一緒に行ってあげてもいいよ」
「ほんと!?」
瞬間、パッと明るくなる名前の顔。
「じゃ、また明日ね!」
ちょうど校門に着き、名前は軽快に校舎へと入っていった。
「これから同じ教室行くのに、”また明日”っておかしくない?」という月島の指摘は、彼女の耳までは届かなかった。
