月島蛍と転校生女子【完結】
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
episode.02「山口、早く風邪治して」
翌日。
始業式とホームルームだけで楽だった昨日とは打って変わり、今日から授業も部活も始まる。
月島は増えた荷物に足取りも重く、気だるそうに家を出た。まだまだ残暑も厳しい。
数分後、いつものように山口と落ち合う場所に着くが、そこに山口の姿はない。
大抵先に着いて月島を待っているその姿がないのは珍しかった。
山口の代わりにポツンと佇んでいた名前が、気まずそうに「おはよう」と声をかけてきた。
「あの……忠、今日休みだって」
「………」
つい、は?と言いそうになったが我慢した。
彼女にあたっても仕方がない。
携帯を確認すると山口から風邪をひいたから欠席するとメールが入っていた。
『名前ちゃんのことよろしくね』
文の最後は、謝っている絵文字と共にそう綴られていた。
新学期早々、風邪引く?
はぁ…と軽くため息を吐いて、歩き出す。
が、名前は一向に歩みを進めない。
「何してんの?来なよ」
「でも、迷惑じゃない?忠、いないのに…」
「は?」
今度は我慢できず、口をついて出てしまった。
「そんな仲良くもない私なんかと……」
「まぁ仲良くはないかもしれないけど、道覚えたの?」
「……えっと…」
その様子は、案の定覚えていないようだ。
「迷惑かけたくないなら、とりあえず道覚えなよ」
「その通りです。ごめんなさい」
「……まぁ迷惑とか思ってないから、来れば?」
月島は再び歩き出す。
ここまで言っても来ないなら、僕はもう知らない、と思っていた。
と、月島の少し後ろを名前は歩き始めた。
「………」
「………」
ついてくる小さな足音に居心地が悪くなり、立ち止まって振り返る。
「あのさ」
「ん?」
「なんか尾行されてるみたいで落ち着かないんだけど。横、歩いてくんない?」
つい、厳しい口調になってしまったが、名前は嬉しそうに月島を見上げた。
「ありがとう」
トトトッと足取り軽く隣にやってくる。
何がそんなに嬉しいのかは意味不明だったが、楽しそうに横を歩く姿はなんとなく山口に似てると思った。
「今日から部活?バレー部だよね。忠から聞いた」
「うん」
「2人とも背高いもんね。バレー部っていうのも納得。カッコいいんだろうなぁ。試合とか、もう出てるの?」
「まぁ」
「すごーい。ちょっと見てみたいかも」
「ふーん」
「私は何部に入ろうかな。運動は苦手なんだよね」
「………」
横を歩いて、とは言ったけど、お喋りしよう、とは言ってないんだけど。
隣に来ることを許した途端、急によく喋るな。壁がなくなった、みたいな。
ヘッドホンして音楽聴いてちゃダメかな……
さすがに失礼か。
「……ね、聞いてる?月島君」
月島の相槌がなくなったことが気になったのか、名前は下から伺うように見上げてきた。
「あ、ごめん。聞いてなかった」
謝ってはいるが、ちっとも詫びる気持ちの入っていない返答。
それを気にすることなく、名前は再び話を続けた。
「だからさ、運動部以外の部活。文化部は何があるのかなぁ、って。月島君、知ってる?」
「興味ないから知らない。先生に聞けば?」
「うん、そうする」
「……まぁ別に、無理に部活に入ることないと思うけど」
「でも部活に入った方が、友達もたくさんできて、楽しい学校生活になると思わない?いつまでも友達が2人だけってのも寂しいし」
「……2人って?」
「忠と月島君」
「………」
……僕、いつ友達になったの?
と思ったが、口には出さなかった。
「……まぁ、じゃあ頑張って」
「ありがとう」
その後もマイペースに話を続ける名前に対し、適当に相槌を打っているうちに、学校へと続く坂の下までやってきた。
「ここまで来れば、もうわかるよね」
あぁ、長かった。学校ってこんなに遠かったっけ?
と思いながら、月島は首にかけていたヘッドホンを耳に装着しながらそう言った。
もう僕の役目は果たしたからね、という気持ちの表れだった。
教室まで付き添う、なんてことは正直勘弁だ。
よく知りもしない女子と2人で登校することは、思っていた以上に気疲れした。
「うん!月島君、ありがとう」
こちらの気も知らず、無邪気な笑顔で見上げてくる名前に背を向け、坂を登り始める。
山口、早く風邪治して。
切実にそう思った。
ーーーーーーーーーー
その日の休み時間。
そういえば、彼女は通学路を覚えていないということは、帰り道もわからないんじゃ……ということに月島は気付いた。
昨日は山口と帰っていったけど、今日はどうするつもりなんだ?
まさか、僕が送っていくべき?
そこまで世話焼かなきゃいけない?
「………」
名前の方を見る。
クラスメイトの3人の女子と楽しそうに話をしていた。何も考えていなさそうな呑気な顔にため息が出る。
どうでもいいや。僕の知ったことじゃないし。
ていうか、部活があるから無理でしょ。
頼まれても断ろう。
月島は手元の本に視線を戻した。
「月島君、月島君」
音楽を聴きながら本に集中していたが、肩をツンツンと突かれ、仕方なくヘッドホンを外す。
机の横に立つ名前が顔をのぞかせる。
「友達できた」
嬉しそうに、そして得意げに笑顔を向けてくるが
月島にとってはこの上なくどうでもいい情報だった。
友達とは、きっと先ほど楽しそうに話していた彼女たちのことだろう。
「お弁当も一緒に食べるんだ」
「よかったね」
一言だけ返して、再びヘッドホンを着けた。
その日の放課後、名前は仲良くなった例の女子たちと帰っていった。
やはり、自分が気にすることなんてなかった。
肩の荷が降りた。
と同時に、どこか釈然としない。
なんか、心配して損したじゃん。
……いや、別に心配してたわけじゃないけどね。
