月島蛍と転校生女子【完結】
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episode.01「こんな偶然ある?」
高校生活にもすっかり慣れた2学期の始まり。
久しぶりに制服へと袖を通し、玄関を出ると、まだまだ残る夏の暑さにげんなりした。
数分後にはいつも山口が待っている場所に着く。
待ち合わせ場所としているわけではないが、なんとなく毎朝そこで落ち合うし、帰りはそこで別れる。
それが、この日はいつもと様子が違い、月島はヘッドホンを外しながら不思議そうな表情を浮かべた。
山口の横にもう一人いる。
しかも女子。
「ツッキー!おはよう!」
山口は何事もないようにいつもの笑顔で手を振ってくる。残暑をものともしない爽やかな表情とよく通る声に、月島は再びげんなりした。
その横で女の子が頭を下げた。烏野の制服を着ているが、見たことのない子だ。
なんなの。山口の彼女?
夏休み中にできたとか?
まぁ、それはどうでもいいけど……
この状況、まさか3人で登校する気?
月島の不安を察した山口は、丁寧に説明をする。
彼女の名前は苗字名前。
家は山口の家の隣。
小学2年生までそこに住んでいたが、父の仕事の都合で東京へ引越し、この夏にまた戻ってきた。
2人が通う烏野高校に編入し、今日が初めての登校だという。
「苗字名前です」
山口の説明の後、名前は月島に向かってもう一度頭を下げた。
「まだ友達もいないし、学校までの道順も怪しいから、おばさんに連れてってやってくれって頼まれたんだ。一緒にいい?」
「じゃあ僕は1人で行くから」
「そんな寂しいこと言わないでよ、ツッキー!」
「ごめん、邪魔しちゃって…」
「別に。邪魔とかじゃないけど」
「ほら行くよー!」
山口が歩き出し、名前も後を追ったので、仕方なく月島も一歩後ろを歩いた。
夏休み中に通学路くらい覚えておくべきだろ……と心の中で少し呆れていた。
「この辺りは覚えてる?」
「うん、家の近くは。なんとなく」
「ならすぐ慣れるよ!」
「でも道覚えるの苦手で…」
「方向音痴ってやつだね」
「忠って優しいけど意外とはっきり言うよね」
2人が話しているのを黙って聞いていると、山口が振り返り、不意に話を振ってきた。
「2年生まで同じ小学校だったんだけど、ツッキー覚えてない?」
「……ごめん。知らない」
記憶を辿ってみるが、顔も名前も覚えがなく、気まずく思いながらも正直にそう言うと名前は笑った。
「そうだよね。私、目立たなかったし。忠とは家が隣だから、登下校一緒になったり、放課後に遊んだりしてたけどね」
「そうそう」
「でも、私は月島君のこと覚えてるよ?」
「え?」
どうして?と視線を向けると名前は楽しそうに続けた。
「クラスは違ったけど、背が高くて目立ってたから」
「ふーん」
「さすがツッキー!有名人!」
「山口、うるさい」
それ以降、月島が2人の会話に入ることのないまま学校に着き、職員室に行くという名前と校門で別れた。
「忠、ありがとう。月島君も、またね」
「どーも」
「早く友達作れよー!」
「任せて!」
「……友達より、まず通学路なんじゃない?」
名前の背中を見送りながら、山口の横でボソッと呟く。
「そう?まぁ、それはそのうち覚えるでしょ」
「………」
呑気に笑う山口にイラッとする。
月島が見ていた限りでは、山口とのお喋りに夢中になっていて、道順など覚えようとしているようには見えなかった。
まさか、明日も3人で登校する気?
別にどっちでもいいけど、転校生のお守りとか、できれば勘弁してほしい。
ハァ…と小さなため息が漏れる。
「………」
教室に入ると、一学期よりも机がひとつ増えている。
が、山口は気付いていないし、誰も気にしていない様子なので、見なかったことにした。
「東京から越して来ました。苗字名前です。よろしくお願いします」
朝のホームルームで、担任の隣で挨拶をする彼女をほうけた顔で見る。
山口に視線を移すと呑気な笑顔を浮かべていた。
こんな偶然ある?と少し引いてしまう。
だが、1年の進学クラスは4組と5組の2クラスのみ。編入試験の成績が良ければ2分の1の確率で同じになる。十分考えられることだった。
……方向音痴でも、勉強はできるんだな。
少しだけ、彼女のことを見直した。
「新学期早々仲間が増えたな。仲良くしろよー。苗字、席はあそこな」
「はい」
案の定、ひとつ増えていた席、廊下側の一番後ろに彼女は座った。
月島と目が合うなり、ニコッと懐こく笑う。
「………」
月島は何事もなかったように前を向いた。
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