菅原孝支と内緒の彼女【連載中】
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episode.06 「秘密のはじまり」
菅原にとって、今年の春休みはとても長く感じた。
まだ寒さの残る3月の終わり。
あの時に交わした言葉は全て覚えている。
本音を確認して、自分の気持ちも伝えたい。
でもそれはきっと、電話やメールでは済ませられない。
会いたい。
早く会って伝えたい。
——4月。始業式。
振り分けられたクラスは3年4組。
教室に入ると、偶然にも意中の相手は同じクラスにいた。
幸運だ。これはもう、神様が自分のことを後押ししてくれているとしか思えない。
迷うことなく、彼女の元へ向かう。
「おはよう。苗字」
「っ、菅原君……おはよう」
名前は菅原を見て驚いた顔をした。
そしてすぐに、少し気まずそうな表情。
菅原の方も、会いたかったとはいえ、顔を合わせるのはあの日以来だったので、どうしても緊張した面持ちになる。
ずっと話がしたかった。
だが、登校してくる新しいクラスメイトたちで教室はざわついている。
今じゃないよな、と菅原は機を改めることにした。
「放課後、話ある。教室残っててくれる?」
「…うん、わかった」
緊張した表情のまま、名前は静かに頷いた。
それを見てニッと笑顔を作る。
「じゃ、また一年よろしくなー!」
最後に明るくそう言い残して、友人の元へ移動した。
退屈な始業式、そして配布物が配られるだけの簡単なホームルームが済むと、新学期初日はすぐに終了した。
「名前、帰らないのー?」
「あ、うん。これだけ書いてく。」
「真面目ー!また明日ね!」
「ばいばい!」
クラスメイトたちが次々と帰っていく中、名前は席に着き、配布された新しい教科書に名前書きをしながら残っていた。
何かをしていないと、気持ちが落ち着かなかったから。
「ごめん大地、先帰ってて」
「おう。また明日なー」
菅原は何をするでもなく、窓の外を眺めながら、人がいなくなるのを待った。
ざわついていた空気はいつの間にかシンと張り詰め、教室は2人だけの空間になる。
「ごめん、なんか色々曖昧なままにしたくなくて」
言いながら、菅原は名前の前の座席を引き、それを跨いで彼女の方を向いて座った。
——苗字って何か部活やってる?
あの日、初めて話しかけられた時と同じ状況にドキッとした。
でもあの時とは違う。
菅原の表情は真剣で、正面から顔を見つめてくる。
「はっきり言うな。俺、苗字のことが好きだよ」
「っ………」
真っ直ぐな言葉に顔が熱くなる。
突然の思いがけない告白に言葉も出ない。
「苗字さえ良ければ…彼女になってほしいって思ってる」
真剣な眼差し。
でも物腰は柔らかく、菅原らしい告白。
名前は目頭が熱くなり、今にも泣きそうで、ギュッと唇をつむぐ。
あの日、中途半端な言葉を残して帰ってしまったことが気がかりだった。
きっと片想いがバレた。
ただのクラスメイトでよかったのに
時々勉強を教えてあげられる関係でよかったのに
私の好きな人を勘違いされたままなのはどうしても嫌で、気持ちを押し付けてしまった。
戸惑ったことだろう。
新学期、避けられるかもしれない。
もう、勉強を聞きにも来てくれないかもしれない。
目も合わせてくれないかも。
春休みの間、毎日そう悩んでいたけど
まさか、菅原君も同じ気持ちだったなんて……
「……私も、菅原君のことが好きです」
涙を堪えながら、名前も真っ直ぐに菅原を見て告白した。
「彼女に…なりたい」
素直な言葉に、安心したように菅原はフッと微笑んだ。
「でも……なれない」
と、続けたられた一言に表情は変わり、パチパチと瞬きを繰り返す。
「………ん?」
「あの……付き合えないの」
お互いにお互いを好きで、告白し合って
両想いのはずなのに、付き合えない……
理解が追いつかず、菅原は頭をポリポリとかいた。
「えっと……どゆこと?」
「私の家、ちょっと変わってて…受験が終わるまで恋愛禁止で…」
「へぇ……恋愛…禁止……」
「お兄ちゃんが、女の子とばかり遊んでて全然勉強しなくて、受験に失敗して…そのせいで妹の私にとばっちりが……だから、付き合えないの」
「……そっか。なんか……大変なんだな」
「………」
「………」
え、じゃあどうなるんだ?
これからもただの友達ってこと?
受験が終わるまで、ってことはあと約1年……
うん、待てる。待つしかないな。
菅原が決意して心の中で深く頷くと
伸びてきた名前の手が、椅子の背もたれに乗せていた菅原の腕を掴んだ。
「でも私、我慢できない。彼女になりたい…です」
ボッと菅原の顔が赤く染まる。
なんだこれ、可愛い。今すぐ抱き締めたい。
「家族に内緒にすればいいかな……」
なんか、前も思ったけど意外と大胆なんだよな。
「え、えっと……大丈夫なのか?それ」
「……バレなければ」
「……でも、苗字が後ろめたい気持ちにならない?」
菅原の優しい気遣いに、胸が暖かくなる。
「大丈夫。親が勝手に決めたことだし……それに受験終わるまで待ったとして、その間に菅原くんが心変わりしちゃったらって思うと……」
「あー、それは絶っ対にありえないから。心配いらない」
菅原がニッといつもの笑顔を見せると、名前も安心したように笑った。
「じゃあさ、内緒にすんなら家族だけじゃなくて、周りの人みんな。学校のヤツらも」
「え?友達にも?」
「徹底的にやらないと、どこからどうバレるかわからないだろ?」
「……内緒のお付き合いだね」
「うわ。なんかそう言うと燃えるな」
菅原の言葉に名前はまた楽しそうに笑った。
こうして、2人は恋人同士に。
誰にも内緒の関係は、こうして始まった。