影山飛雄と幼馴染の女の子
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episode.07「一番大事な人」
今、思えば——
「飛雄、私初めて彼氏できた!」
「…………は?」
あの時、飛雄はしばらく固まってた。
その後は何やら不機嫌になって、でも気付いたらいつも通りだったから、私はそこまで気にしてなかった。
2人目の時は
「新しい男?」
「うん、今度はうまくいくと思う」
「……だといいけどな」
やっぱり喜んではくれなくて、少し拗ねていた。
3人目の時は
「あ?なんつった?」
「だから、今度はサッカー部の先輩。結構カッコイイんだよ。写真見る?」
「お前な、いい加減にしろよボケ」
そう言って飛雄が怒った理由は、次々と彼氏が変わる私に対して『どうせ続かないくせに懲りないヤツだな』という意味だと思ってたけど
違ったんだ。
飛雄は、どんな気持ちで毎回私の”彼氏できた”報告を聞いていたんだろう。
それを考えると胸がギュッと痛くなる。
——お前もう、彼氏とか作るな
あれが飛雄の本音。
そして、あいつにはそれを言う権利があった。
間違っていたのは私の方。
バレーボールにだけ夢中な飛雄には
私は必要ないと決めつけて
無理やり終わりにしようと
他の人に恋をしたつもりになって
私は一番大事な人をずっと傷つけていた。
「私っ……飛雄になんてことを……」
体育館の出口。
人で混雑している中、飛雄の姿を探した。
必死だった。
知らない間に涙がたくさん溢れていた。
「名前?」
飛雄のほうが先に私を見つけてくれた。
「飛雄っ」
顔を見た瞬間、溢れる気持ちが止まらなくて
走り出し、人目も気にせず飛雄に抱き付いた。
「ごめんなさいっ!!」
突然現れた女に抱き付かれ
しかも優勝を祝福する言葉ではなく、この一言。
完全に置いてきぼりを喰らっている飛雄のチームメイトたちが、ポカンとハテナマークを浮かべている空気が伝わった。
でも今の私は空気を読む余裕なんてない。
「か、影山、知り合いかー?」
「とりあえず俺たち先に行ってるなー」
「すみません。こいつ、どうにかしたら追いかけます」
逆に空気を読んでくれた烏野高校の皆さんはそそくさと離れていく。
後で機会があったらちゃんと謝りたい。
でも今は……
この男とちゃんと話がしたい。
「……急にごめん」
「いいよ。よくわかんねぇけど、とりあえず今は離れろ」
「はい」
ーーーーーーーーーー
人気のない体育館の裏へ移動し、壁を背に2人並んで、私は全てを飛雄に話した。
「……まぁそんなことだろうと思ってたけどな」
飛雄は呆れたようにため息を吐いた。
「本当にごめんなさい!!」
「……覚えてねぇならしょうがねーだろ」
しかし意外とあっさりと許してくれた。
見た目にはすごく落ち込んで見えるけど……
ぶっきらぼうだけど、基本的には優しいヤツなんだ。
「ねぇ飛雄はずっとさ、その……そういうつもりだったの?」
「あ?」
「私と…け、結婚するって……」
「だって約束したしよ」
鋭いながらも曇りのない瞳にドキッとする。
「だったら、何で私が他の人と付き合っても黙ってたの?」
「……おかしいか?」
「だって…結婚を約束した相手が自分以外の人と付き合ったりして……嫌じゃなかったの?」
「そこはお前の自由だし。今誰と付き合おうが将来は俺と結婚するだろうと思ってた」
その言葉はバカがつくほど単純で、真っ直ぐで、決めたことを曲げない。
飛雄らしいと思った。
「……まぁ正直…すげぇ嫌だったけどな」
そして口を尖らせ、眉間に皺を寄せて、突然本音を伝えてくる。
なんだかまた、涙が出る。
「ごめんなさい!!」
私は飛雄と正面に向き直って、頭を下げた。
「もういいっつってんだろ!泣くな!」
「約束、忘れててごめんなさいっ!他の人と付き合ったりしてごめんなさいっ……私、本当はずっと、飛雄が一番好きだったよ……今も大好きだよっ……」
思わず飛雄のジャージを掴むと、その手を大きな手に握られる。
「……じゃあ、もう好きな時にしていいんだよな」
と、突然顔を近づけてる飛雄。
唇にふわりと柔らかい感触。
3度目のキスだった。
「………」
「何回でも、していいんだな」
「んっ……」
また、唇が触れる。
4度目、5度目……
もう数えていられないくらい、何度も何度も
口付けては離れ、また口付けて
最後に大きな腕が私の体をきつく抱き締めた。
「もう間違えんな」
首元に顔を押し付けてきて、耳元でかすれた声が静かに響く。
「……うんっ…」
私もその大きな背中に腕を回して
できる限りの力で飛雄の体を抱き締めた。
「優勝おめでとう、飛雄」
「おう」
…fin
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