影山飛雄と幼馴染の女の子
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episode.06「約束」
——白鳥沢!! 白鳥沢!!
——行け行け烏野!! 押せ押せ烏野!!
両校の声援が仙台市体育館に響き渡る。
私は烏野側の応援席で美羽ちゃんと共に観戦をした。
飛雄の試合を見るのは、中学のとき以来だった。
あまり思い出したくはないのに、記憶に強烈に残っている、飛雄がチームから孤立した、あの試合だ。
「……飛雄ね、高校入ってから毎日楽しそうなの」
ぽつりと美羽ちゃんが話し始めた。
「あの仏頂面だし、わかりにくいけどね、前よりも少しだけ部活の話をするようになった。特に本人がそう言ったとかじゃないけど、良いチームメイトに巡り会えたんだと思ってたんだ」
美羽ちゃんの視線の先には、タイムアウト中のチームの皆。
そこに溶け込んで何やら話をしている飛雄の姿。
「やっぱりそうだったんだね。安心した」
「………うん」
美羽ちゃんに釣られるように、私も頬が緩んだ。
うちの高校はやはり”強豪”といわれているだけあって、素人目に見ても強かった。
——絶対勝ってね
飛雄にはああ言ったけど、白鳥沢が勝ってしまうのでは…という思いは拭いきれない。
でも、試合が進むに連れ、そんな思いは薄れていき”烏野が勝つかも”という期待に変わる。
勝って!
必ず勝って!!
絶対に全国へ!!
今日初めて目にした飛雄のチームメイトたちに気持ちをぶつけた。
後半になると、飛雄の姿を追っているだけで、不思議と涙が溢れそうになってくる。
苦しそう、だけど楽しそう。
飛雄、よかったね。
バレーを頑張ってきてよかったね。
バレーを好きなままでよかったね。
神様、ありがとう。
飛雄にバレーをさせてくれて。
——ピピーーーーーー!!
烏野の勝利を告げる審判の笛が鳴り響いた瞬間、美羽ちゃんと抱き合う。
すでに顔は涙でぐしゃぐしゃで、それを拭うこともせず、ただただ称賛の拍手を送った。
「応援、ありがとうございました!!」
応援席に向かって頭を下げる選手の皆に、さらに大きく手を叩いた。
ふと、列に並ぶ飛雄と目が合う。
いや、この距離。本当に合っているかはわからないけど…こちらを見ている気がする。
そして飛雄はこちらに向かって拳を作った。
私も飛雄に向かって拳を伸ばす。
満面の笑みを向けると、飛雄は小さく頷いた。
ーーーーーーーーーー
「美羽ちゃん、私ね、最近飛雄と喧嘩してたの」
コートでは表彰式が行われる中、美羽ちゃんに打ち明けた。
「えっそうだったの?」
「私が怒らせちゃったの」
「珍しい!一体何したの?飛雄が怒るようなことって……」
「それがわからなくて……私が何かを覚えてないみたいで、それが原因なことはわかるんだけど…」
そう。
仲直りはしたけど、結局原因はちゃんとわからないままだ。
飛雄の試合を見て、改めて飛雄のことが大好きだと思った。
そしたら、喧嘩の原因はうやむやにしたくなくなった。
「……名前、私、それわかるかも」
と、美羽ちゃんが何かを思い出すように頭に指を添えた。
「えっ!?」
「去年だったかな。うちに女の子が来てさ」
「女の子?」
「飛雄のクラスの子だって言ってた。あんた以外の子があいつを訪ねてくるなんて珍しくてさ、私こっそり会話を聞いてたんだけど…あいつ、生意気にも告白されてたの」
「告白っ!?」
「でもね……」
美羽ちゃんは目を細め、眉間に皺を寄せて飛雄の顔真似をする。
そして低い声で
「”悪い。俺、結婚相手決まってるから”……ってばっさり」
「え……結婚相手…?」
突飛なワードに頭が混乱する。
飛雄が…すでに婚約してるってこと?
嘘……嘘……
「名前!名前!聞いて!」
言葉を失う私の肩を美羽ちゃんがトントンと強く叩く。
「それって名前のことだよ!」
「………え?」
「やっぱり覚えてないかー!」
——それは10年ほど前の話。
「わたしもみわちゃんみたいなおねえちゃんがほしいなー」
「大きくなったら飛雄と結婚すれば、名前と私は姉妹になれるよ」
「そうなの!?」
「こら美羽。小さい子からかわないの!」
「えへへー」
「とびお!おとなになったらわたしとけっこんしよ!」
「けっこん?おう、いーぞ」
「やくそく!」
「やくそく?」
「もうきまりってこと!」
「わかった。やくそくな」
「ほら言わんこっちゃない」
「あはは!2人とも可愛い!」
——まだ5歳だった2人が交わした約束。
「何それ……私、覚えてない…」
「まぁ2人とも小さかったし。でも飛雄は覚えてたのね。あの子ったら……健気!」
知らなかった。
全然知らなかったよ。
って言うか、なんでそんな子どもの頃のこと
今も本気にしてるの。
「………」
飛雄は私と結婚する気なんだ……
今までずっと、そのつもりだったんだ……
「ごめん、美羽ちゃん、先に帰ってて!!」
「はいはーい」
表彰式が終わると同時に私は席を立った。