山口忠と積極的な女の子
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episode.09「メッセージ」
いつも、遠くから見てるだけだった。
彼を見たさに、東京まで試合の応援にも行った。
しまだマートへ買い物がてら、こっそりサーブ練習を覗いたりもした。
廊下ですれ違えば、ニヤけてしまう頬を抑えるのに必死だった。
でもある時気付いた。
見ているだけじゃダメだって。
あんなに素敵な人。
他の女の子たちが放っておくわけがない。
決死の思いで挑んだバレンタイン。
それからは、夢じゃないかと思うほどの幸せな出来事ばかり。
嬉しかった。
勇気を出してよかったと思えた。
前よりも山口君のことがもっともっと大好きになった。
でも……
——ち、違います!そういうんじゃないです!
——本当に違うんですって!
バレー部の先輩に向かってそう言う山口君を見てショックを受けた。
茶化された焦りから咄嗟に出てしまった言葉なのはわかってる。
”彼女じゃない”と言われたことがショックなわけじゃない。実際に彼女ではないのだから。
ただ、私が山口君に迷惑をかけている、その状況がショックだったんだ。
あの日私が気持ちを押し付けなければ、山口君を悩ませることはなかったのに。
”バレーの邪魔だけはしたくない”
そう思ったら、離れるしかなかった。
まだ、好きなのに。
誰よりも、前よりも、大好きなのに。
ーーーーーーーーー
4月。
俺たちは2年生になった。
もちろん、クラスは別。
始業式のときに遠くから苗字さんを見かけたけど、ただそれだけ。
会おうとしなければ、会うことはない。
中庭で話をしたことも
勉強会も、その後駅まで並んで歩いたことも
全て夢だったように思えてくる。
もう、本当にこれっきりなんだろうか。
「渡せてないってどうゆうこと?もうとっくに付き合ってるもんだと思ってたんだけど」
ツッキーは俺のヘタレ具合に呆れていた。
「でもさ、俺に彼女ができたらツッキー寂しいでしょ?」
「………」
「その顔やめて…」
冗談を言って誤魔化そうとしたけど、無言の返り討ちにあった。
しょうがないんだよ、ツッキー。
俺だってどうしたらいいか、わからないんだ。
——今まで優しくしてくれてありがとう
あんなふうに言われたら……
もう終わりなのかなって……
まだ、好きなのに。
初めて恋した人なのに。
「はぁ……」
帰宅後。
配られた教科書をまとめて机の上に出す。
ついでに机の整理でもしよう。
気持ちもスッキリするかもしれない。
そう思って、1年の時の教科書をまとめた時だった。
ふと数学の教科書を手に取る。
「………」
これ、苗字さんに貸したなぁ。
なんて考えてしまう俺、今すごくセンチメンタルだな。
情けない自分に苦笑して、それを他の教科書に伏せて重ねる。
と、
「………ん…?」
違和感に気付いた。
それは裏表紙の一番下。
名前欄の”山口忠”の右下に小さくある
”大好きです”の文字。
「っ……!!」
もう一度それを手に取って、顔を近づけてまじまじと見る。
今まで気付かなかったくらい、とても小さい字だった。
けど、それは確かに俺に向けられたもの。
一気に顔が熱くなる。
教科書を握る手に力が入った。
これまでの彼女が、走馬灯のように溢れ出す。
——これ……あの……山口君に
—— 苗字名前です。1年1組です
——私、頑張るって決めたの。山口君のこと
——私からしたら……一番かっこいいの
——これは何かのご褒美ですか
「………」
”大好きです”
「苗字さんだ……絶対そうだ!!」
次の瞬間、ホワイトデーに渡せなかった物を手に
家を飛び出していた。