影山飛雄と幼馴染の女の子
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
episode.05「仲直り」
あれから2週間、口をきいてない。
というか、会ってすらいない。
飛雄が怒った理由も、わからないまま。
——身に覚えがないっつーなら、もう関係ねーよ
私はきっと、何かを忘れてしまっている。
それはきっと、飛雄が落胆するような、何か。
記憶を探るけど、どうしても思い出せない。
「あら名前ちゃん」
もう一度きちんと話をしたくて、夕食後に飛雄の家を訪れた。
「おばちゃん、こんばんは。飛雄いる?」
「それがまだなの。最近は毎日こんなよ。遅くまで練習してるみたい」
「そうなんだ…」
「帰って来るまで待ってる?何時になるかわからないけど」
「ううん。疲れてるだろうし。また今度でいい」
飛雄のお母さんに挨拶をして、家に戻った。
前よりさらにバレー漬けの日々になっているようだ。
そういえば、そろそろ春高の予選が始まる。
きっと今、飛雄の頭の中はバレーのことだけ。
私との喧嘩なんて、忘れてるんだろうな。
バレーの邪魔はしたくない。
予選が終わったら、また会いに行ってみよう。
ーーーーーーーーーー
10月の末。
授業の合間に校内放送が流れた。
内容は、バレー部が今日の準決勝を勝利し
明日の土曜、決勝が行われるということ。
都合のつく生徒は、なるべく応援へ行くように、ということ。
そして、その相手校の名前を聞いた瞬間、私の体は固まった。
烏野が、飛雄が……決勝まで勝ち残っていた。
明日の土曜、県内一の強豪といわれるうちのバレー部と飛雄のチームが戦う。
周りの生徒たちがその朗報に喜ぶ中、私だけが泣きそうになるのを必死に堪えていた。
その日の夜。
「名前ー!飛雄くん来たよー!」
夕食もお風呂も済ませ、部屋で課題をやっているとき、1階から聞こえた母親の声に反応する。
「えっ!」
「入るぞ」
ノックもなく、ガチャリとドアが開き飛雄が現れる。
もしも着替え中だったらどうしてくれるんだ…と一瞬思ったけど、そんなことには気が回らないところが飛雄らしいとも思った。
なんとなく髪を整えながら、椅子をくるりと回転させ、飛雄の方を向いた。
「勉強してたのか?」
遠慮もなくズカズカと入ってきた飛雄は、私の机の上を覗きながら驚いた声を上げた。
「一応進学校だからね。やらないとついていけなくなっちゃうの」
「お前も大変なんだな」
「まぁね」
少しの緊張が走る。
あの日の喧嘩以来ってこと、飛雄はわかっているのかいないのか…
だけど今日の飛雄は少し、表情が真剣だった。
「明日」
私の目の前に仁王立ちし、こちらを真っ直ぐに見下ろす。
「白鳥沢と決勝だ」
「うん、知ってる。学校で聞いたよ」
「応援来るのか?白鳥沢の」
「え?特には。強制ではないし」
「来いよ」
「え……?」
伸ばされた飛雄の右腕に、左肩を力強く掴まれる。
「俺の応援に来い」
「………」
「俺以外は応援するな」
私はまた、涙が出そうになるのを堪える。
ずっとずっと、小さい頃から飛雄を応援してきた。
どれだけ一緒にいても、練習に付き合っても
バレーに励む飛雄のそばで、私はいつも置いてけぼりにされているような感覚だった。
飛雄は私なんかいなくても、勝手に強くなって
どんどんひとりで上へ上へと行ってしまうから。
私がそばにいなくても、決勝まで勝ち上がったように。
でも今は、飛雄が私を必要としてくれてる。
それがわかって、嬉しくて、心から安心して
胸がいっぱいで泣きそうなんだ。
「自分の学校だとか関係ない。私が応援してるのは、子どもの頃から飛雄だけだよ」
真っ直ぐに見つめて、目一杯の笑顔をつくる。
肩を掴んでいた手がするりと下におりて、そのまま腕を掴まれ、引かれるままに椅子から立ち上がると、勢いよく飛雄の胸へと引き寄せられた。
「ちょっ、なに?」
「あ?気合い入れんだよ」
ふぅーっと長く息を吐きながら、ぎゅうっと強く私を抱き締める。
不意に、あの日のことを思い出した。
中3の春。
抱き締めあった日のこと。
でもあの時よりも、飛雄の体はたくましく感じる。
私もそっと、その大きな背中に手を回した。
「明日、烏野の応援に行く。絶対勝ってね」
「当たり前だ。そんで、全国だ」
変なの。
私たち喧嘩してたのに、なんで抱き締めあってるんだろう。
思えば、子どもの頃からそうだった。
ささいなことで何度も喧嘩して、歪みあって
「もう飛雄となんか口きかない!」
「俺ももう遊んでやらねー!」
そんな言葉を浴びせあって、傷つけ合っても
気がつけば、いつの間にか仲直り。
家族のような私たち。
今、私が飛雄の腕の中で願っているのは、ただひとつ。
烏野の勝利。