影山飛雄と幼馴染の女の子
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episode.04「喧嘩」
初めてのキスは
勢いのままに荒々しく唇を押し付けられて
頭の後ろを抑えられ、逃げることもできず
焦っているうちに離れ、目を瞑るのも忘れた。
そして今、2度目のキスは
同じ飛雄からのものとは思えないくらい優しい。
ふわりと唇が触れて、すぐに離れた。
ちゃんと目を閉じていたし、一瞬の出来事なのに
やわらかい唇の感触とか、額にあたる飛雄の前髪のこそばゆさとかが、しっかりと残った。
離れた後に目を開けると、まだ鼻先が触れそうな距離で私を見つめる瞳と目が合う。
熱を帯びているその視線が恥ずかしくて、私は思いきり下を向いた。
と、飛雄は離れて、再びバレー雑誌に目を向ける。
私も視線をテレビの方へと戻した。
楽しみにしていたドラマのはずなのに、全く内容が頭に入ってこない。
消えない恥ずかしさから逃れたい気持ちで、ソファの上でぎゅっと膝を抱えた。
無言が気まずくて、平静を装って話しかける。
「……ねぇ、今日は何しに来たの?」
昔は用もなくお互いの家を行き来していたけど、飛雄がバレーで忙しくなってから、特に高校が別になってからは、こういうことはほとんどなくなっていたのに。
「今日体育館の点検で、部活休みだったし」
だからって、わざわざ人の家で雑誌読む?
「……お前、あれから態度おかしかったから」
「………」
思い当たる節がありすぎて、私は口を閉じた。
初めてのあのキスから、飛雄への接し方がわからなくなった。
顔を合わせればあのキスを思い出してしまうし、恥ずかしくて目も合わせられないし、うまく喋れない。
必死で”今まで通り”にしているつもりだったけど、こいつにはバレてたんだ。
そっか。
私の様子が変だったから…来てくれたのか……
きっと久しぶりに部活のない日、他にやりたいこともあっただろうに。
不器用な優しさに、胸がキュッとなる。
「……名前?」
黙り込んだ私に不安になったのか、飛雄が再び顔を近づけてきたので、私は反射的に体を引いて距離をとる。
と、戸惑ったように飛雄はポリポリと頭をかいた。
「一回すれば慣れるもんだ、ってお前言ってたけどよ、全然慣れる気がしねぇ」
……キスのことだろうか。
「えっ……飛雄は慣れたいの?」
「だってお前、俺としかできないんだろ?」
「………」
言われた言葉に顔が熱くなる。
今のところその通りなんだけど…だからと言って、慣れる必要は……
ていうか、飛雄はそれでいいの?
「もう一回してみるか」
「えっ、ダメダメ。さっきはなんか…間違えちゃったけど、もうこういうのよくない」
「なんでだよ」
「だって……付き合ってるわけでもないのに……」
「お前、俺とならしていいって言ったろ」
「いいって言うか、できるかもと思っただけで、本当にするとは思わなかったし……」
しかも、まさか2度目もあるなんて……
「まぁ俺は前からお前としたかったけどな」
「…………はい?」
耳を疑った。
前から? 私と?
したかったの? キスを?
飛雄が?
「………」
「………」
言葉を失う私をよそに、飛雄は再び雑誌に目を向け、パラリとページをめくる。
いやいやいや。爆弾発言しておいて、よくこのタイミングで次のページ見ようと思ったね。
こっちは今の言葉の真意が気になって仕方ないのに。
「ねっ!なによ今の。初耳なんだけど」
「言うわけねぇだろ。お前付き合ってる奴いたしよ。でも、今はそういうのいないんだろ?」
「……そうだけど…」
わからない。
飛雄がわからない。
小さい頃から、わかりにくいヤツだったけど
今の飛雄は今までで一番理解できない。
”私とキスしたかった”って
それって私のこと……って思っちゃうよ。
でも相手は飛雄。
普通に考えてはいけない。
雑誌に視線を落とす飛雄の横顔をじっと見つめる。見つめれば考えている事がわかるわけではないけど。
と、顔は動かさず視線だけがこちらを向いてきて、ぱっちりと目と目が合う。
「つーか、お前もう彼氏とか作るな」
不機嫌そうに突然の命令口調。
私もムッとなる。
「なにそれ勝手!」
「あ?勝手なのはお前だろ」
「え?なんでよ」
「………覚えてねぇの?」
「何を?」
「………」
「………?」
「……もういい。帰るな」
勢いよく雑誌を閉じると飛雄は立ち上がる。
やばい。
何だか本気で怒らせてしまったみたい。
「なに怒ってるの?覚えてない、って何の話?」
玄関へ向かう飛雄の後を追いながら必死で問いかけた。
「もういいって言ったろ。身に覚えがないっつーなら、もう関係ねーよ」
「まっ……」
引き止めようとしたけど、パタンと虚しく玄関の扉が閉まった。
最後の飛雄の視線、鋭く冷たかった。
ただ怒っているだけじゃない。
傷付いて、失望した。そんな表情。
いきなり怒り出して、よくわからないことを言ってきて、私だってムカついているのに
あんな顔されたら100%こちらに非があるんだと思ってしまう。
「な、なんなの!もー!!」
返事はないとわかっていても、気持ちをぶつけるように扉に向かって叫んだ。