菅原孝支と内緒の彼女【連載中】
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episode.05 「勘違い」
自分の完全なる片想い。
そう諦めている名前。
名前の好きな人は、自分の親友である澤村。
そう勘違いしている菅原。
お互いの気持ちには気付かず、平行線のままそれまで通りクラスメイトの関係を続け
2年生も終わろうとしている3月。
名前は、最近見るからに元気のない菅原のことが気になっていた。
笑っていても、どこか上の空で
大好きなはずの部活へ行く時は、心なしか少し辛そうにも見える。
何より授業後に来てくれることが増えた。ノートを写させてほしい、と。
嬉しくはあったが、彼が授業に集中できていない証拠だった。
2年最後の日。
この日は部活もないので、終業式の後、名前は校庭の隅で菅原を待った。
話をしたかったから。
帰っていく生徒たちが次々と目の前を通り過ぎる。
こんな場所で、大胆すぎただろうか。
でも心配だし、次も同じクラスになれるとは限らないし、ゆっくり話せる最後のチャンスだ。
と、昇降口から澤村と共に菅原が出てきた。
そしてすぐに、名前の存在に気付く。
「苗字じゃん。どーした?」
声をかけてからハッとして、菅原は隣の澤村を見る。
澤村の方はキョトンとしていた。
「あー……俺、先に行ってようかな〜」
気を利かせようとした菅原はその場を離れようとする。
が、名前はそれを止めた。
「待って!あの…菅原君に用があって…」
「えっ、俺ぇ!?」
菅原は驚きを隠せない表情で自分を指さす。
どこか緊張している名前の様子を察して、澤村はひとり歩みを進めた。
「じゃあ俺は行くよ。苗字また新学期な!」
「ごめんね、澤村君。またね!」
「スガは明日!遅れんなよ!」
「おう!わかってんよ」
名前は驚いたように菅原を見た。
「明日も部活なの?」
「ははっ、まぁね」
2人になり、菅原にも緊張が走る。
学年最後の日。
帰り際に待ち伏せしてくれているなんて、どうしたって期待してしまいそうになるが、ちゃんとわかってる。
彼女の好きな相手は自分じゃない。
これは告白とか、そういうのじゃない。
「えっと……」
「人通るし、とりあえず歩くか?」
「あ、うん。そうだね」
校門を出て、坂道を下りながら
名前は静かに話し始めた。
「急にごめんね?澤村君と帰ってたのに…」
「別に。大地とは明日も会うしな。で、用って?」
「余計なお世話かと思ったんだけど、菅原君、最近変だったから気になって……」
「え?俺?変だった?」
「変っていうか…元気ないかな?って気がして」
「………」
ドキッとした。
自分でそんなつもりはなかった。
普段通りに過ごしているつもりだった。
でも、見透かされていた。
「あの、話したくなかったらいいんだけど…なんか心配で」
……優しいヤツなんだよな。
自分のことを本気で心配してくれている様子の名前に、菅原は胸がいっぱいになる。
「この間さ、試合でいろいろあって…今、部がちょっとギスギスしてんだよ」
「バレー部が?」
「仲間内でモメて、衝突した2人のうち、1人は一ヶ月部活禁止。そんで、もう1人は…バレー辞めちゃうかもしれなくて」
「……そうだったんだ…」
「俺が落ち込んだって仕方ないことなんだけどな……」
名前が突然立ち止まったので、菅原も歩みを止める。
振り返ると、少し潤んだ瞳でこちらを見ていた。
「大丈夫だよ!」
「!」
「菅原君と澤村君が待っててあげれば、きっと戻ってきてくれるよ!絶対大丈夫だよ!」
必死でそう訴えてくる姿に胸を打たれる。
あぁ、俺、やっぱりこいつが好きだな。
「なに苗字の方が泣きそうになってんだよ」
菅原は笑いながらポンポンと軽く彼女の頭を撫でた。
成り行きでそうしてしまったが、軽々しく触れてしまったことに恥ずかしくなり、すぐに手を離す。
「そうだよね、ごめん。でも菅原君や澤村君の気持ちを考えたら…辛くて……」
名前は目をゴシゴシとこすりながら再び歩き出し、菅原も隣を歩いた。
「苗字さ…」
「ん?」
「……今日は、俺のことが心配で待っててくれた、ってことでいいんだよな?」
「え?あ、うん。そう…お節介でごめん」
「いや……大地を待ってるのかと思ったんだ」
「え?澤村君?」
不思議そうな顔を向ける名前に
少し迷いながらも菅原は続けた。
「……好きなんだろ?」
「えっ……」
「ごめん、俺知ってた。苗字の好きな相手、大地なんだろ?」
「どうして……」
「かなり前だけど、教室で話してたの聞いちゃって……ごめんな」
「……あぁ!あの時!?」
記憶をたどり、その場面を思い出した途端
名前の頬は赤く染まっていく。
「大丈夫。誰にも言ってないし、言うつもりもない。もちろん本人にもな」
ニッと笑ってそう言うと、ちょうど分かれ道である坂の下に着き、菅原は手を上げた。
「じゃ、俺こっちだから。またな!」
返事も聞かず、振り返りもせずに歩き出す。
後悔していた。
最後、なぜあんなことを言ってしまったのか。
大地の名前を出すなんて。
あんな、あいつの反応を見るような、気持ちを確認するような。
卑怯だろ。
自分の気持ちも言えないくせに。
情けなさから唇を噛む。
と、突然菅原の服の裾が引っ張られた。
「違うの」
立ち止まって振り返ると、追いかけてきていた名前がすぐ隣にいて、菅原を真っ直ぐに見上げていた。
「……私の好きな人、澤村君じゃない」
声は小さく震えているけど、しっかりと主張をするような、そんな言い方だった。
「え、でも……」
「あの時は、流れで誰かの名前を出さないといけない雰囲気だったから……」
「なんだ……そうだったのか」
……じゃあ、君の好きな人は?
「あ、ごめん」
名前は咄嗟に掴んでしまっていた菅原の制服から焦って手を放す。
その様子に、わざわざ追いかけてきて、否定してくれたこの状況を意識して、また胸が高鳴る。
「……なぁ、なんで大地?」
「え?」
「実はちょっと気になってはいる、とか?」
こんなこと聞いたら、しつこい男と思われるかな…
さっき後悔したばかりだっていうのに。
でも、こうなったら少しくらい卑怯でもいい。
本心を知りたい。
「違う。本当は他に好きな人がいて……」
「えっ」
「でも、あの時は本当のこと言いたくなくて……いつもその人のそばにいる澤村君の顔が頭に浮かんだの」
「………」
「だから名前を出させてもらっただけ」
名前は放したばかりの菅原の制服の裾を、もう一度ぎゅっと掴んだ。
「菅原君だけには勘違いされたくない……です」
「……え、ちょ、ちょっと待って。それって……」
「引き止めてごめん。ばいばい!」
最後にそう言い残し、走って行ってしまった。
耳まで真っ赤になった彼女の顔を菅原は見逃さなかった。
とにかく、言われた言葉を整理するのでいっぱいいっぱいだった。
苗字の好きな相手は大地じゃなくて
でも他に好きなヤツはいて
それはいつも大地のそばにいるヤツで
——菅原君だけには勘違いされたくない…です
いやいやいや……
どう考えても、それ……
熱くなって仕方がない顔を隠すように
手の甲を鼻にあてた。