菅原孝支と内緒の彼女【連載中】
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episode.04 「片想いと失恋」
そもそもの始まりは
2人がまだ2年生になったばかりの頃——
「苗字って何か部活やってる?」
これまで話をしたこともなかった菅原が、突然名前の前の席に座り、後ろを向いて話しかけてきた。
クラス替えの時の自己紹介を聞いた時は、爽やかで親しみやすく、クラスの人気者になりそうな印象を持ったが
目の前に現れた、その人懐っこい笑顔。
後から思えば、完全に一目惚れだった。
「え、ううん。特に何も」
うまく返事をできたかわからないくらい、胸がドキドキした。
「俺バレー部なんだけど、マネージャーやらない?」
「え?マネージャー?」
「今、清水ってヤツがいるんだけど、1人じゃ結構大変そうでさ」
頬を指でかき、困ったように笑いながらそう言った。
菅原君の力になってあげたい。
名前は素直にそう思ったが、安易に受けられる話ではなかった。
「ごめん。うちの親、成績に厳しくて。放課後は塾もあるし」
「そっか!進学クラスは塾行ってるヤツ多いんだよなー」
ガックリと肩を落としたかと思えば、残念がるように天井を仰いだ。
断られたことに対して嫌味のないその素直なリアクションにも好感が持てた。
「菅原君は?塾行ってないの?」
「おう。部活ばっか」
「それで勉強もできるなんてすごい」
「そこまでできねぇよ。今度教えて」
「わ…私でよければ」
「やった!約束なー」
嬉しそうに笑って席を立ち、去っていった。
去り際まで爽やか。
これをきっかけに話をする機会が増えた。
名前にとって菅原は片思いしている特別な相手。
いつも楽しそうに飄々としているけど、急に怒ることもあったり、表情が豊か。
バレーに夢中で、でも勉強も手を抜かない。
色々な菅原を知っていくうちに完全に恋に落ちていた。
だが、誰とでも分け隔てなく仲良くできる菅原にとって、自分はただのクラスメイトのひとりに過ぎない存在。
それでもよかった。
約束したとおり、菅原は授業でわからないことがあるとノートを手に聞きに来てくれる。
その時間が名前にとって特別だった。
塾に通っていてよかった、勉強が得意でよかった、と心底思える瞬間だった。
ーーーーーーーーーー
「やべ!教室にジャージ忘れた!」
放課後の部活前、部室に菅原の声が響いた。
「何しに来たんだよ」
「早く取ってこいよ。黒川さんたちもう来るぞ」
焦って校舎へと戻ると、誰もいないはずの教室から話し声が聞こえる。
クラスの女子がまだ数人残っているようだ。
「じゃあ次、名前の番!」
「ええっ、私別にいないよ。好きな人なんて」
うわ、入りにくい話題だ。どうすんべ……
「でも誰かを格好良いと思うことくらいあるでしょ!」
「そうそう!教えてよ〜私たちも言ったんだから」
「え〜……」
ちょっとごめん、と声をかけて入れば済む状況とはわかっていたが、菅原の足は動かない。
彼女の好きな人が妙に気になってしまったから。
立ち聞きはいけないという気持ちと好奇心の狭間で、どうするべきか迷っているうちに、名前は口を開いていた。
「……澤村君、かな」
聞こえてきた名前に、余計に体が固まる。
「きゃー!」
「名前は澤村が好きなんだ!」
「えっ!好きとかじゃないよ!格好良いって思う人って…」
「でも一番に名前があがるってことは…ねぇ?」
「そうそう!でも良いと思うよ、澤村。お似合い!」
「もうっ!本当に違うってばっ!」
女子たちの声が遠ざかる。
気がつけば、その場から逃げるように廊下を走っていた。
そっか、苗字って大地のこと。
そっかそっか。
大地を選ぶとか、見る目ありすぎるな。
「………」
「うお!!」
着替えを終えた澤村と東峰が部室を出ると、菅原が静かに立っていた。
「ど、どうした〜?スガ」
「ボーッとしてないで早く着替えろ」
「……あぁ、ジャージ取ってくるの忘れた」
「あ?何しに戻ったんだよ」
「う、うるせぇ!バカ大地!もう今日は帰る!」
涙目になり、突然澤村に殴りかかろうとするが、軽々と手首を止められる。
「それは許さない。何があったか知らないが、教室にあるんだろ?もう一回行ってきなさい」
「スガ、ほら、早くしないと先輩に怒られるぞ〜…」
2人に背を向けて走り出し、菅原は仕方なくもう一度教室へ向かった。
今度こそ、ちょっとごめん、って声をかけて堂々と中に入ろう。と意気込んで行ったが、あの女子3人はすでに帰ったようで、教室には誰もおらず拍子抜けした。
ロッカーに忘れられていたジャージを手に取り、教室を出ようとしたところで、ひとつの席が目に留まった。
名前の席だ。
「………」
——澤村君、かな
あの一言が頭から離れない。
そしてひどく動揺している。
何でショック受けてんだ。俺。
まさか俺……
まぁ確かに
苗字のことは前から可愛いなって思ってたし
おとなしいけどよく笑うし、話せば楽しくて
勉強わかんないとこ教えてくれるときも
丁寧でわかりやすいし、優しいし
笑顔とか直視できないくらい輝いてる時あるし
この間連絡先交換したときはちょっと…
いや、かなりテンション上がったりして……
好きなヤツ知ってショック受けて
大地に嫉妬とか
これ、もう完全に……
なーんで気付かなかったんだろ。
俺って、苗字のこと好きなんだな。
でも苗字は……
——名前は澤村が好きなんだ!
「気付いた途端、失恋かよ」
教室でひとり、小さく呟いた。
この後菅原は部活に遅刻し、先輩に叱られた。