影山飛雄と幼馴染の女の子
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episode.03 「恋とは」
「落ちた」
「だろうね」
それは中3の2月。
私立白鳥沢学園高校の合格発表へ来た私と飛雄は掲示板の前で立ち尽くしていた。
予想通り、飛雄の番号はなかった。
「そっちは?」
「受かった」
「お前が勉強できんのは知ってたけど…すげーな」
「まぁね」
「県内一の強豪だぞ……ずりぃ」
「私はバレーしないから関係ないけどね」
飛雄から「白鳥沢を受験する」と聞いた時はとても驚いた。というか…引いた。
え?あんた、自分の成績わかってる?
白鳥沢の偏差値わかってる?
そう聞いたけど、いまいちピンと来ていない顔だったので、説得することは諦めて好きにさせることにした。
私が白鳥沢を受験したのは、進学校へ行きたかったのと、以前から校風に憧れがあったから。
飛雄が受けるから、という邪な理由ではない。
決して。断じて違う。
……まぁ奇跡的に飛雄も受かって、一緒に通えたらいいな…なんて考えなかったこともないけど…そんな奇跡はやはり起こらなかった。
こうして私は白鳥沢に、飛雄は烏野高校に入学し、ずっと一緒だった2人が初めて離れ離れになった。
長い片思いを終わりにするにはちょうどいいと思った。バレーに勝てなかった私の初恋は、こうして幕を閉じた。
これからも、ただの幼馴染として飛雄のバレーを応援していく。
そう決めた。
ーーーーーーーーー
「連絡先教えてよ」
「苗字さんさ、彼氏とかいる?」
「俺と付き合ってください!」
入学してすぐ、自分は意外と異性から好意を持たれる人間だということを知った。
進学校といえど、高校生男子というものは恋愛に対してとても積極的だ、ということも。
1人目は隣の席になった林君。
一番に声をかけてきて、一番に告白してきてくれたから、付き合ってみることにしたけど、彼は俗にいう女好きで、チャラチャラしていた。
付き合ってすぐに体を求められて、キスを断ったら2週間でフラれた。
クラスにも私たちが付き合っていたことを知る人はほとんどいない。
2人目は隣のクラスの斉藤君。
委員会で仲良くなり、一緒にいる時間が増え、告白された。
林君のときよりは順調だったと思う。
けど、彼は興奮すると鼻息がやけに荒くなる人で、2人きりになる空間は苦手だった。
やっぱりキスができなくて断り続けていたら、1ヶ月後に「他に好きな人ができた」とフラれた。あれはきっと、彼の優しい嘘だった。
3人目はサッカー部の白川先輩。
部のマネージャーをしている友達を通して知り合った。
「名前ちゃんが嫌がることはしない」「大事にする」と言ってくれていたし、先輩という存在に年上の余裕と魅力を感じたが、結局あの日、公園でフラれたのがこの人。
高校に入学して半年の間に3人。
側から見ればひどい女。
取っ替え引っ替え。そう言われてしまえばそれまで。
だけど、私からしたらその都度真剣だったし、彼らを好きになれそうな気がしてた。
好きになりたかった。
でも今だからわかる。
どれもこれも恋愛ではなかった。
とても相手に失礼だったと反省しているし、彼らがどこぞの素敵な女の子と幸せになってくれることを心から祈ってる。
この失敗があったからこそ、私は本物の恋を知った。
本物の恋。それは……
たった今、私の隣にいるこいつへの気持ち。
リビングのソファでテレビを見ていたら家に入ってきて、隣に座ってきたと思ったら、何を話すわけでもなくバレー雑誌を広げてる、この男。
飛雄への感情。これが恋だ。
——してやるよ
あのキスが頭から離れない。
あのキスから飛雄を意識して止まらない。
必死で”今まで通り”を演じている。
心臓が壊れそうなほどにドキドキして、胸が痛い。
痛いのに嫌じゃない。
その人のことしか考えられない。
これが恋だ。
幕を閉じたはずの初恋は
あのキスによってこじ開けられてしまった。
「なぁ」
「な、なに?」
突然声をかけられ、驚いて声が上擦った。
恥ずかしい。
飛雄の方を向けば、思ったよりもそばにある顔。
あれ?最初に座ってきたときよりも、体も近い気がする。膝と膝があたりそう。
じっと見つめてくる鋭い視線に鼓動は速くなる。
——飛雄から”オス”って感じはしないもん
どうして、あんなこと言えたんだろう。
今の飛雄はものすごく”オス”
今となっては、飛雄だけしか男として見られない。
だって、私がキスできるのはこの男だけ。
「ちょっと、何?」
いい加減視線が恥ずかしいのと、声をかけてきたくせに本題を言わない飛雄に痺れを切らす。
と、飛雄はずいっとさらに顔を寄せてきた。
「……もう、しねぇの?」
「………なっ…!!」
一瞬、何を?と思ったけど、すぐに察して言葉を失う。
はじめて見た。飛雄のこんな顔。
少し甘えているような、挑発しているような。
誘っているような。強引なような。
でも無理矢理ではなく、私に委ねてくる。
……ずるい。
キス、するの?
っていうか、飛雄はしたいの?
私は……そりゃしたいに決まってる。
だって、好きな人なんだもの。
でも、冷静な自分もいる。
一度は勢いでしてしまったけど、そもそも私たちはそういう関係ではない。ただの幼馴染。このまままた間違いを繰り返すべきじゃない。
繰り返すべきじゃ……
「今度はちゃんと目、閉じろ」
断る隙も与えられずに飛雄の顔が目の前に来て
私は慌てて目を閉じた。
恋って、理性で制御できない。