第二章 〜私の憧れ〜
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非番の日。
街で用事を済ませたペルは
宮殿へ歩みを進めていたが、ふと足を止め
方向を変えてあの絨毯屋へと向かった。
相変わらずメイン通りから一本入ると
ガラリと人通りが少なくなる。
しかし喧騒から離れ、落ち着いた様子の商店街に
この店の雰囲気はとても合っていると感じた。
奥のカウンターには今日も変わらずあの少女の姿。
ペルに気がつくと笑顔を作り、立ち上がった。
「こんにちは!」
「どうだ。売れているか?絨毯は。」
自分の方へと駆け寄ってくる彼女に
店先から声をかける。
「はい。今日は珍しく朝から大物が売れました。」
「そうか。それはよかった。」
ミドリのホッとしたような表情に
ペルの表情も自然と柔らかくなる。
と、ミドリが突然深々と頭を下げた。
「この間はミサンガを買っていただいてありがとうございました。とても嬉しかったです。」
「いや、礼を言われるほどのことはしていない。気に入ったから買っただけだ。顔を上げてくれ。」
そう言うと体制を直し、笑顔を見せた。
商品が売れたせいか、先日会ったときよりも
比較的元気はあるように見える。
が、やはりどこか無理をしているような
作り笑顔のような
そんな表情が少し気になってしまう。
「今はお仕事中ですか?」
「今日は非番だ。用事を済ませ、これから帰るところでな。邪魔をして悪かった。」
「いえ、いつでもお待ちしてます。」
「あァ。また来る。」
店を出ようとして一度立ち止まり、振り返る。
「……名を、聞いてもいいか?」
「あ…ミドリです。すみません、すぐに名乗るべきでした。」
「いや。ミドリか。覚えておく。」
「あなたは、ペルさん。ですよね?」
「知っていたのか。」
「最初にお会いした時にビビ王女が。」
「あァ、なるほど。じゃあ、また。」
「はい、また。」
軽く手を上げ、店を後にする。
背中に向かっていつまでも頭を下げて見送る。
そんな姿を見て思った。
本当に、あれは礼を言われるほどのことじゃない。
私が君の為にしてやれることなんて
他に思いつかなかっただけだ。
”君の為に”
会ったばかりの絨毯屋の娘を相手に
なぜそのように思ったのか。
自分でもわからないが、どうしても気になる。
まだ二十歳にも満たないであろう少女が
全てを諦めたような、人生に絶望しているような
そんな顔でいるから
なんとかしてやりたいと思ってしまうんだ。
「………」
ふと、足を止めた。
振り返ると、店の中に戻ったのか
自分を見送る彼女の姿はもうない。
そのままたった今来た道を戻り
絨毯屋のひとつ手前にある衣料品の店を訪ねた。
そこには元気な女性店主がおり
扉を開けて入ってきたペルを見るなり
有名人の登場に嬉しそうに声を上げた。
「まぁこれはこれは!いらっしゃいませ!」
「仕事中にすまない。少し話を聞きたいんだが——」