第一章 〜私の存在〜
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ペルが店を去った後、ミドリは
受け取ったお金を手のひらに乗せて見つめていた。
初めて自分で稼いだお金。
たった数百ベリーに心が躍った。
こんなに嬉しい気持ちになったのは
生まれて初めてかもしれない。
ミドリは少し迷い、後ろめたさがありながらも
それをそっと、自分のポケットへとしまった。
完全に日が暮れた、閉店の時間。
この日売れたのは小さなマットが2枚に
ミドリのミサンガがひとつ。
ミドリはマット2枚分の売り上げを
恐る恐る伯父と伯母へ差し出した。
「今日もこんなもんなのね。」
「仕方ねェな。さっさと夕食の支度をしろ。」
「はい。」
ホッとしてキッチンへ向かうと
従兄弟のヘクドルは咄嗟にミドリの腕を掴む。
「父さん母さん、ミドリのヤツ!嘘ついてるよ!」
「なっ……」
彼の一言に、一瞬でミドリの顔は青ざめた。
「あ?」
「どういうことなの。」
「お前の作った変な腕輪!売れてたろ!おれ見てたんだ。」
「っ……それはっ……」
腕を強く引かれながら、伯父と伯母の目の前へと
引き摺り出される。
ミドリを見る3人の目は
まるで汚いものでも見るかのような目つきだった。
「出しな。」
ポケットを強く握る。
あの人からもらった大事なお金。
初めて自分の作ったものが売れたお金。
大切にとっておきたかった……
「出せ!!」
「っ……」
伯父に髪を掴まれ、ミドリの顔が歪む。
仕方なく、ポケットのお金を差し出した。
途端にさらに強く髪を引っ張られ
ミドリの身体は勢いよく床に叩きつけられる。
同時に手から数枚のコインが散らばった。
——本当に、大丈夫なのか?
床に散らばるコインを見て、ふとあの時の
心配そうなペルの顔が浮かんだ。
本当は、全然大丈夫じゃないんです。
ミドリの目に涙が浮かぶ。
伯母は散らばった金を拾いながら大声を上げた。
「これっぽっちでもうちの店で売ったものの売り上げは当然あたしらのものだよ!!そんなこともわからないの!!」
痛みを堪え、なんとか四つん這いになると
3人に頭を下げる。
「ごめんなさい…申し訳…ありませんでした……」
「目障りなんだよ!!」
「消えろ!このブスが!!」
脇腹のあたりにヘクドルの容赦のない蹴りが入り
ミドリの体は再び床へと転がった。
「母さん、今夜はどこかへ食べに行こうよ。」
「あらいいわね。」
「気分が悪ィからいつもよりいい店でたらふく食おう。」
「やったぜ!」
3人は売り上げを手に家を出て行った。
残されたミドリはフラフラと立ち上がり
自室へ入ると、全身の痛みを労るように
布団へと潜り込む。
途端、ボロボロと涙が溢れてきた。
悔しい。悲しい。
こんなところ一刻も早く出ていきたいけど
そうしたところで
道端で野垂れ死ぬ未来の自分が目に浮かぶ。
立ち向かうことも
逃げ出すことも
自ら命を断つこともできない。
家族とも思えないあんなヤツらは大嫌いだけど
こんな自分はもっと嫌い。
こうして悲しみに打ちひしがれることがあるたび
王女様の言葉を思い出していた。
——どうか気を強く持ってね!
ビビ王女。
とても素敵な人だった。
私には眩しすぎて、直視できなかったくらい。
住む世界が違うこんな私にも笑いかけてくれた。
私は強くはなれません。
こんな毎日に堪えて生きていくしかできない
弱い人間なんです。
それに…
——あなたに何かあっては困ります!
すごく羨ましかった。
一度でいいから私も
あんな風に誰かに大切にされてみたい。
でも実の母からも、いらないと捨てられた。
そんな私を愛してくれる人なんているわけがない。
誰かが道端に捨てた紙クズと同じ。
私はこの世界にいらない存在。