第一章 〜私の存在〜
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私は捨てられた。
置き去りにされたという事実に気がついたのは
何年も経ってからだった。
それまでは「いつかお母さんが私を迎えにくる」と
そう信じて疑わなかった。
でも、いくら待っても姿を現さない母に
だんだんと不安は大きくなる。
もしかしたら
このままお母さんは現れないのかもしれない。
もう私のことなんて、忘れてしまったのかも。
その考えは伯母の一言によって確信に変わった。
「あんたの母親は迎えになんか来ない。あんたは捨てられたんだよ。」
やっぱりな、とどこか諦めたつもりだったが
悲しい、信じたくないという思いが強く
たくさん泣いた。
自分を捨てた酷い人だ、と母を恨むことで
なんとか気持ちを立て直した。
受け入れるのに、ずいぶんと時間がかかったが
受け入れてしまえば楽になった。
”期待することは裏切られることだ”と
幼心に学んだ。
私と伯母は、側から見たら家族。
でも、突然養わなければならなくなった私を
伯父も伯母も可愛がってくれることはなく
私が成長するにつれ
それは明らかな態度となって現れていった。
冷たい視線、浴びせられる汚い言葉。
私はこの人たちに嫌われている、と
幼いながらもどこか冷静に理解し
できるだけ怒らせないよう、刺激しないよう
静かに過ごしていた。
彼らの間には、ヘクドルという
私より2歳年上の息子もいた。
彼も両親と同様に
突然現れた妹とも受け入れ難い存在を拒否した。
3人からの扱いはだんだんと酷くなり
今では完全に虐げられて暮らしている。
休みなく働く召使いのような生活。
満足に食事も与えられず
全員から容赦なく暴力を振るわれる毎日。
「いつまでも食べていないでさっさと片付けをし!全く図々しい!」
「それ終わったら店に出てろ!1枚も売れなかったらただじゃおかねェ!」
「なによその目は!誰のおかげで暮らしていけてると思ってるの!!」
「頼むからお前あまり出歩くなよ。こんなのと一緒に住んでるとか、知られたら最悪だ。」
罵声を浴びせられ、何度も謝る。
暴力から頭を守る。
視線を合わせないよう、俯く。
出来るだけ逆鱗に触れないよう、へりくだる。
ずっとずっと、いつもそうしているうちに
私は上を向けなくなったんだ。