最終章 〜私の戦士〜
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——コンコン
夜。
部屋の中に控えめなノック響き
ペルが扉を開けるとそこにミドリが立っていた。
「ミドリ。ナノハナだと聞いていたが戻っていたのか。」
「はい、つい先ほど。」
にっこりと笑顔を見せるがどこか疲れた様子。
ペルはそっと部屋に入れ
扉を閉めると頭に手を置いた。
「おかえり。遠出して疲れただろう。」
頭を撫でてくれる優しい手の温もりに目を伏せる。
愛おしい。大好き。
今はこうしていつでも会えるけど
夢を叶えるということは、ペルさんと……
「どうした。向こうで何かあったか?」
「いえ……こんな時間にすみません。もう部屋に戻ります。少しお顔が見たかっただけなので。」
「待った。」
部屋を出ようとするミドリの手を咄嗟に取る。
「少し話そうか。」
「でも、ペルさんもお疲れじゃ…」
「少しくらい大丈夫だ。おいで。何か飲むか?」
「いえ……何もいりません。」
言いながら恐る恐るペルのベッドへと腰掛けるミドリ。
その様子にペルは不思議に思った。
いつもなら、テーブル横の椅子に座るところを
わざわざその奥のベッドへと座ったからだ。
その行動はなんとなく不自然だし
ミドリの表情もいつものように穏やかではない。
「やっぱり何かあったのか?」
ペルはできるだけ優しい声色で彼女の様子を
伺いながら少し隙間をあけて隣に座った。
「いえ、本当に何も……ただ、たまにはこのまま一緒に寝たいな、と思って。」
いたずらっ子のように笑顔を作ったかと思えば
思いもよらない提案をしながらベッドをぽんぽんと叩く。
その様子にペルは一瞬目を見開き
すぐに真剣な表情をミドリへ向けた。
「ミドリ……意味はわかってるのか?」
「………」
「おれも男だ。惚れてる女と同じベッドで一晩なんて、我慢し切れる自信がない。」
「……平気です。ちゃんと…わかってます。」
ミドリの笑顔が消えた。
ペルがそっと手を伸ばし、ミドリの肩に触れる。
ピクっと小さく肩が震えた。
そのままゆっくりとベッドへと寝かせ
ペルもその横に肘をついて彼女を見下ろす。
あいている手で頬に触れる。
これ以上ないほどに優しく気遣ったつもりだ。
それでも、ミドリの身体が強張っていくのを
痛いほど感じた。
キスすらまだしたこともない。
手に触れたことも、抱き締めたことも数回程度。
それが突然こんな申し出をしてくるなんて
何か理由があるのは明白だ。
男を誘惑だなんて、彼女には似合わない。
似合わないような行動を起こすほどに
ミドリは今何かに悩み、そして焦っている。
真っ直ぐにその瞳を見つめる。
揺れる瞳は、ペルの視線に耐えかねて伏せられた。
本当はまだ覚悟ができていない気持ちの表れだ。
「……部屋に帰りなさい。」
ペルは彼女の背を支えて元のように起き上がらせ
優しく肩を抱いたままの手はそのままにした。
「大事にしたいんだ。軽々しくこういうことはしないでくれ。」
「……ごめんなさい。」
叱られた子どものようにシュンと項垂れる。
「ミドリ。何かあったのなら、ちゃんと話を聞きたい。」
「いえ、ちょっと疲れてるだけです。もう、部屋に戻りますね。」
「………」
立ち上がり、部屋を出るミドリの背を
ベッドに腰掛けたまま見送った。
「おやすみなさい。」
「あァ、おやすみ。」