第一章 〜私の存在〜
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「いちいち探しに来なくてもすぐに戻るのに。」
ビビはテーブルの上の絨毯を
名残惜しそうに撫でながら口を尖らせる。
「あなたに何かあっては困りますので。」
「でもペル。この絨毯素敵じゃない?」
「必要ありません。」
ビビに向かって厳しい口調を向ける
”ペル”と呼ばれたその男を
ミドリはストールの隙間から見上げた。
王女様を探しにきたこの男性もきっと
王族に仕える偉い方なんだろう、と思った。
白い服に身を包み
頭にも服と同じ柄の入った白のバンダナを巻き
精悍な顔立ちで、両目の周りから頬にかけて
なんとも特徴的な紫の入れ墨が入れてある。
腰に剣を刺し
いかにも戦いに従事していることが見て取れた。
”アラバスタ最強の戦士”といわれ
その名を国中に知らしめているペルだが
家族から生活を制限されているミドリは
彼のことを知らなかった。
「では。失礼いたしました。」
「いえ。」
ペルはミドリに一言そう告げて
「まだ見足りないのに…」とぼやいている
ビビの背を押し、店を出た。
ミドリも軽く会釈を返す。
「また来るから!どうか気を強く持ってね!!」
ビビは最後にそう言い残すと
見えなくなるまでこちらに向かって手を振った。
ミドリもそれに応えるように
なるべく笑顔を作って手を振る。
小さくなっていく2人の姿は
ミドリの瞳にいつまでも焼き付いていた。
あれがビビ王女。
なんて可愛らしくて素敵な人。
王女様なのに偉ぶってなくて、優しい。
それにあの”ペル”と呼ばれていた方は
きっと王女様を守る護衛隊の方。
「……いいなぁ…」
自然と心の声が漏れた。
2人の背中が人混みに消えた後も
しばらくそちらの方を向いて立ち尽くしていた。
「ミドリ!何をサボってんだ!!」
突然店の奥から聞こえた大声に身体が強張り
慌てて中へ戻ると
カウンターの前に伯母が仁王立ちで立っていた。
いつの間にか食事から戻り
店の裏手にある玄関の方から家に入ったようだ。
「すみません、お客様だったので…」
「へぇ。売れたの?」
「いえ……」
「何のための店番だ!全く!今日も一枚も売れなかったらまた夕食抜きだからね!!」
「……わかりました…」
彼女はミドリの母親の姉。
ミドリの母親は自分の姉のもとへ
3歳のミドリを預け、そのまま行方をくらました。
それから15年もの間
実の母に代わって育てられてきたが
それは愛あふれる家族の姿とはほど遠かった。