第六章 〜私の希望〜
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痛みが引くまでは安静にするように、と言われ
ミドリは少しの間
診療室のベッドでの生活となった。
その間も頭に浮かぶのはペルのことばかり。
抱き締められた温もりが
しっかりと焼き付いて離れない。
が、今となってあれは現実だったのか否か
自分の記憶に自信を持てずにいる。
都合の良い夢を見ていたようにも思えてくる。
というのも
最後に”また来る”と言い残したペルが
あれから一向に姿を見せないせいもあった。
彼の忙しさは理解していたが
少し寂しいと思ってしまうことも正直な気持ち。
そして、あの日の出来事が現実だったのか
もしかして自分の妄想だったのか
彼に会ってきちんと確かめたいとも思っていた。
ーーーーーーーーー
「お世話になりました。」
「まだまだ無理はしないように!少しでも違和感を感じたら、すぐに来なさいね。」
「はい。ありがとうございます。」
3日もすれば痛みは落ち着き、足を庇いながらも普段の生活へ戻ることとなった。
荷物を抱え、診療室の扉を開ける。
と、目の前に現れた人物に言葉を失った。
「……ミドリ。」
それは今まさに扉に手をかけようとしていた
ペルだった。
顔を見合わせた瞬間、一気に体温が上昇する。
ずっと想っていた人が目の前に。
不意打ちの出来事に頭はついていかず
バクバクと鼓動が速くなるのを感じる。
突然開いた扉の奥から現れたミドリに
ペルの方も驚いている様子だった。
荷物を持っている彼女を見て、察しがついたのか
安堵した表情を浮かべた。
「様子を見に来たんだが……そうか、もう足はいいのか。」
「あ、えっと…はい。痛みは引いたので、少しずつ動かした方がいいって……」
「なかなか来られなくて悪かったな。部屋に戻るなら、これは私が持とう。」
ペルはミドリが抱えていた荷物に手をかけた。
「いえっそんなっ…自分で運べます。」
「遠慮するな。甘えたらいい。」
なかば無理やり荷物を預かり、もう片方の手を
ミドリに向かって差し出す。
「掴まれ。」
「い、いえ!大丈夫!大丈夫です!歩けます!」
まさか手など握れるはずがない。
ミドリは顔の前で手をひらひらとさせて断った。
先ほどからずっと、恥ずかしさのせいで
ペルの目を見ることができずにいる。
目が合わないことを不服に思ったペルは
ミドリの顔を覗き込むように背を曲げる。
同じ高さになり、やっと視線と視線が交わると
安心したように微笑んだ。
体の熱が一気に顔に集まったように熱くなる。
この優しい笑み。
あの出来事は
やっぱり夢ではなく、現実だったんだ。
そう確信すれば、全身が震えるように高揚した。
「ゆっくりでいいから。」
ペルが優しくそう言うと静かに歩き始めたので
ミドリもその後に続いた。
片足を庇うミドリを気遣うよう
ゆっくりと廊下を進む。
そんなペルの少し後ろをついていく。
うるさい心臓は、足を痛めていることなど
忘れてしまうくらいドキドキと鳴り止まない。
何か話さなくては。
そう思えば思うほど、言葉が出てこない。
どうして、わざわざ会いに来てくれたのですか?
どうして、優しい笑顔をくれたのですか?
どうして、あの日抱き締めてくれたのですか?
聞きたいことは山ほどあったけど
口に出す勇気がない。
ねぇ、ペルさん。
あなたの気持ちが知りたいです。
本当の本当に、私の勘違いじゃない?