第六章 〜私の希望〜
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「ペル様ー!」
遠くから自分を呼ぶ声が小さく聞こえた。
声がした方角を見ると宮殿から伸びる階段から
こちらに手を振る侍女の姿。
「ペル様!!お戻りください!!」
ペルは急旋回して宮殿を目指した。
その侍女の前に降り立ち人型へと戻る。
「ミドリが戻りました!」
その言葉に心から安堵し、深いため息が漏れた。
足の力まで抜けそうなほどだ。
自分でも思った以上に不安になっていた。
彼女の話によると
ミドリはひとりで帰ってきたらしいが
足を怪我しているとのことだった。
怪我と聞いて、再び不安が募る。
診療室へと急いだ。
「私だ。入るぞ。」
診療室一番奥のカーテンを開けると
ミドリはベッドから起き上がる。
「ペルさん……」
ペルを見るなり少し驚いた表情。
そして頬を染めながら緊張した面持ちになる。
顔を見た瞬間
ペルから再び安堵のため息が漏れる。
ミドリの左足首には包帯が巻かれており
隣に座っていたメイディが状況を説明した。
「通り過ぎた荷馬車から突然荷物が崩れてきたそうで、近くの子供を守った拍子に挫いてしまったそうです。そこから無理に歩いて帰ってきたので悪化してしまったみたいで…」
「捻挫か。そのくらいで済んでよかった。」
「ペル様もわざわざミドリを探しに行かれていたのよ。」
「お手を煩わせてしまってすみません…」
ミドリはしょんぼりと申し訳なさそうに頭を下げた。
「大丈夫だ。気にするな。」
「ミドリ、お昼まだでしょ?処置も済んだし、何か持ってくるわね。」
「すみません、メイディさん。ありがとうございます。」
メイディが出ていくと2人だけの空間になり
静まり返る。
ミドリは色々と気まずいようで
俯いて視線を合わせようとしない。
ペルはベッドに片膝をあげて乗ると
腕を伸ばしてミドリをふわりと抱き寄せた。
「…えっ……」
突然のことにミドリは言葉に詰まる。
好きな人の胸に抱き寄せられて
腕の中に包まれている。
とても現実とは思えないこの状況に
完全に混乱していた。
「あの……ペルさん?」
「攫われたのかと心配した。」
「攫われた?私が?」
「しばらくひとりでの外出は控えてくれ。」
抱き寄せられた頭は胸にぴたりと押し付けられて
耳のすぐそばでペルの静かな声が響く。
ドキドキとうるさい心臓の音がペルにまで
聞こえているのではないかと不安になるが
そんなことを気にする余裕もない。
身体は固まり、呼吸すら難しく感じる。
とにかくこのままでは
自分がどうにかなってしまいそうだ。
「……あの…ペルさん、私、気持ちをお伝えしましたよね?」
「………」
「これはちょっと…えっと……勘違いしてしまいます……」
本当にまずい、とミドリはペルの服を
掴んで遠ざけようとする。
が、反対に抱き締める腕の力は
ギュッと強くなった。
「……勘違いじゃないよ。」
「…え……」
優しく囁かれた言葉にしばし固まる。
言葉の意味を理解して、途端に耳まで赤くなった。
顔が沸騰しそうなほどに熱い。
冗談を言っているような空気ではない。
本気と受け止めていいのだろうか。
頭が混乱して止まらない。
ペルは何も言えなくなってしまったミドリを
そっと離し、包帯の巻かれた足に手を置いた。
「しかし……君は相変わらず”助けて”が言えないんだな。」
そして困ったように笑う。
「……す、すみません…」
それだけ答えるのが精一杯だった。
「無理だけはするな。仕事が残っているから、私はもう行く。」
「お忙しいのに、ありがとうございました。」
「安静にしていろ。また来る。」
最後に優しい笑みを残して
ペルはカーテンを閉めた。
足音が遠ざかり、診療室の扉が閉まる音がして
辺りはシンと静まり返る。
「………」
——勘違いじゃないよ
なに、今の……
夢でも見てたかな。
最後の優しい微笑みが頭から離れない。
ミドリは熱い頬をシーツに押し付けるよう
膝を抱えて顔を隠した。