第五章 〜私の変化〜
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その日の夜。
ミドリは再び、ペルの部屋の前にやってきた。
好きでいてもいいのか……結局答えはわからない。
でも、好きになってしまったものは仕方ない。
それなら、少しでもその人のそばに……
ビビに背中を押され、勇気をもらえた気がした。
——コンコン
少し震える手で控えめにドアをノックする。
と、ドアの向こうから足音が近付いてきて
ガチャリ、と開いた。
「ミドリ。どうしたんだ?こんな時間に。」
ミドリを見るなり、ペルは驚いた。
予想通りの反応だ。
「こんばんは。あの…ごめんなさい、突然おしかけたりして……」
「いや、構わないが。とりあえず入るか?」
「いいんですか?」
ペルの誘いにミドリの表情はパッと明るくなる。
ペルはミドリを椅子に座らせると
テーブルにグラスを置き、そこにお茶を注いだ。
「こんなものしかなくて悪いな。」
「いえっ、お構いなく。」
「何かあったのか?」
ペルは酒を飲んでいたようで、飲みかけの
グラスを手にミドリの向かいに座って足を組んだ。
その仕草が妙に大人っぽく、さらに
部屋に2人きりという状況を今さら意識して
胸がドキドキしてくる。
「いえ、そういうわけではないんですけど……久しぶりに話がしたくて、ビビ様にペル様のお部屋を教えていただきました。」
言いながら、よく考えたら迷惑なのではないか
と不安になってきた。
「あの、勝手にごめんなさい。」
「いや、大丈夫だ。確かに顔を合わすのは久しぶりたな。」
ペルがいつもの笑顔を見せ、ミドリは安心した。
「あの……飛行訓練の邪魔をしてしまって、ごめんなさい。」
突然頭を下げるミドリ。
唐突な話題にペルは再び驚いた。
「私がいると気が散るから、場所を変えたんですよね。すみません、迷惑なことに気が付かなくて。」
「いや迷惑などと思っていない。私は……」
他の男と楽しそうにしている姿を
見たくなかっただけだ、なんて
そんな本音は言えるわけがない。
「もっと広い場所で飛ぼうと思っただけだ。」
「え、そうなんですか?」
「よりスピードを出すための訓練に切り替えたんだ。宮殿からは少し離れた場所になってしまったが。」
「そうですか。なんだ…よかった。勘違いだったんですね」
ミドリは安心したように笑った。
本音を隠し、騙すような言い方になってしまったことに、ペルは少し胸が痛んだ。
「何も言わず場所を変えてすまなかった。不安にさせてしまったな。」
「いえ。」
「ライアンと…」
今もあそこで会っているのか?
と聞いてしまいそうになって、慌てて口を紡ぐ。
途中で言葉に詰まったペルに
ミドリは首を傾げた。
「ライアンさん?」
「あ、いや…ウマが合うようだな。話していて楽しそうだった。」
咄嗟に誤魔化したつもりだったが
結局、嫉妬心丸出しの男の言動になってしまい
ペルは心の中で頭を抱えた。
「あ、はい。仲良くしていただいてます。ここに来て、初めての友達かもしれないです。」
「そうか。よかったな。」
「私たち、いつもあなたの話をしています。」
真っ直ぐにミドリから見つめられ
胸が大きく脈打った。
「ライアンさんもペル様に憧れてるって。だから、いつも飛行訓練を見ながらペル様の話で盛り上がっていました。」
「……そうだったのか。」
何事もないように相打ちをしながら
手で口元を隠した。
どうしたって緩んでしまいそうで。
そして、欲も出てくる。
「……ミドリ。」
「はい。」
改まって名前を呼ばれ、ミドリはピッと
背筋を伸ばした。
「その”ペル様”というのはやめないか。」
「え、でも……」
「今まで通りがいい。」
ペルの鋭い視線が真っ直ぐに自分を見据えて
ミドリも真っ直ぐに見つめ返す。
「わかりました。ペルさん。」
照れたのか、笑ってしまったミドリに
ペルも笑顔を返した。
込み上げてくる愛おしさ。
今まで通りがいい、と言っておきながら
確実に前とは違う2人の空気感。
そして、ライアンは”友達”と聞いて
安心している自分がいる事実。
部屋に招き入れた時点で自覚していた。
おれはもう、完全にこの子に……