第四章 〜私の初恋〜
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——キンッ キンッ
刃と刃がぶつかり合う音があちらこちらから響く。
あれから数日が経った非番の日
ミドリは再び訓練場へと足を運んでいた。
中庭を埋めるように集まった兵士たちが
剣術の実践に励む中心にペルの姿がある。
兵士一人一人に声をかけ、助言をしている様子だ。
ミドリは彼らの邪魔にならないよう
隅の方から静かにその様子を眺めていた。
「何か用か?」
背後から現れ、ミドリに声をかけたのはチャカ。
ペルと同じく国の副官を務める男だ。
ミドリは慌てて頭を下げる。
「チャカ様。初めまして。ビビ様の侍女として働かせていただいています。ミドリと申します。」
「あァ。君がヤツが連れてきたという。」
「すみません、特に用事があるわけではありませんが、訓練の様子を見学させていただいていました。」
「まァ別に構わない。ゆっくりしていきなさい。」
「ありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げるミドリを背にし
チャカはペルの元へ向かった。
ちょうど休憩時間となり、兵士は散り散りになった。
「……ただの小娘じゃないか。」
ペルの横に立ち、コソッと耳打ちをする。
と、その一言だけでは理解に苦しいペルは
不思議そうな顔をチャカへ向けた。
「?」
「彼女だ。お前がそこまで惚れ込む理由が見当たらん。」
チャカの視線の先へ自分も視線を合わせると
端のベンチに座っているミドリの姿。
ペルはチャカが伝えたいことの意味を理解し
焦って弁解をした。
「なっ!だから、そういうんじゃないと言っているだろ。」
「どうだかな。」
「今でこそ笑うようにはなかったが、会ったばかりの頃はそれはそれは酷かった。おれはそれをどうにかしてやりたかっただけだ。」
「本当にそれだけか?」
「しつこいぞ。」
ペルはため息を吐いてチャカから離れた。
勝手に妄想を膨らませて楽しんでいる親友に
心底呆れる。
本当に深い意味はない。
彼女を助けてやりたかった。
彼女を笑顔にしてやりたかった。
ただそれだけだ。
ましてや相手は自分と10以上も歳が離れた女の子。
そんな感情になるわけが……
ペルが再びミドリの方へ目をやると
先ほどまで1人だったミドリの隣に
ひとりの兵士が座っていた。
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「思い出したか?」
「すみません!気がつかなくて!あの時は本当にありがとうございました。」
ミドリを見つけて隣にやってきた若い兵士は
先日ミドリをあの店から助け出した時に
客のフリをして連れ出してくれた男だった。
「おれもすごく緊張してたんだよ。あんな店行ったことないし。でも慣れてるように見せないと、バレたら大変だから。」
「嫌な役をさせてしまってたんですね。すみません。でも兵士さんだなんて全然わかりませんでしたよ。」
「なら良かった。女の子連れて歩いたことなんてなかったからな!」
「ふふっ。」
「そういえば名乗っていなかったな。ライアンだ。君はミドリちゃんだね。」
「はい。」
「おれもまだまだ新米なんだ。よろしく。」
「こちらこそ。よろしくお願いします。」
差し出された大きな手を掴み握手を交わす。
本人が自分で”新米”と言うように
ライアンは兵士の中でも比較的若く
ハツラツとした印象の人物だった。
突然話しかけられ、身構えていたミドリだったが
その陽気で朗らかな笑顔に安心していた。
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「確かによく笑っているな。」
いつの間にか、再びペルの隣へと現れたチャカは
同じ方向を見ながら嬉しそうに口角を上げる。
「………」
が、ペルは聞いているのかいないのか
ぼんやりと2人の方をただ眺めていた。
「おい。」
「……そうだな。やはりここへ連れてきて正解だった。」
吐き捨てるようにそう言うと
水分補給をしている兵士たちのもとへ行き
「いつまで座り込んでいる!」と怒鳴り散らす。
兵士たちは慌てて場に戻り
ライアンもミドリの隣から離れた。
「……あからさまだな。」
部下に当たり散らす親友の姿を見て
チャカは苦笑を漏らした。