第四章 〜私の初恋〜
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ビビに会釈をして廊下へ出る。
突然の自由時間。
ミドリの足は真っ先に宮殿内の図書館へ向かった。
読み途中であった本の続きが気になっていたからだ。
広い中庭を横切る渡り廊下を通ったときだった。
すぐ横をビュンっと音を立てて何かが通り
同時に強い風が吹く。
一瞬だが、捲れそうになるスカートを
すぐさま手で押さえるほどの風だった。
渡り廊下から顔を出し、確認すると
通り過ぎたのは大きな鳥。
空へ向かって高く高く飛んでいく。
その姿から、それがペルだとすぐにわかり
ミドリは笑顔になる。
図書館へ行くことも忘れ、しばらくそこから
自由に飛び回るペルを目で追っていた。
自分を乗せてくれた時よりも何倍ものスピード。
目にも止まらぬほどの速さで
急旋回、急降下を繰り返し、また大空へ高く舞う。
まさに自由自在に飛び回る姿に
見ているだけで爽快な気分になった。
しばらくして
ペルはスピードを落とし、中庭へ降り立つ。
ミドリは走り出し、渡り廊下を渡った先の階段を
早足で駆け降り、中庭に出る。
人型に戻っていたペルと視線が合い、軽く手を
上げてくれたのでミドリはそばへ駆け寄った。
広い中庭は普段、兵士たちの訓練場となっているが
今は誰もいない。
「どこかへ向かう途中だったんじゃないのか?」
ペルはミドリが渡り廊下から自分を見ていたことに
気付いていたようだった。
「今日はもう暇をいただいたので、図書館へ行こうとしていたんですが、ペルさんが見えたので。」
「そうか。なんだか久しぶりだな。」
久しく見ていなかった優しいペルの笑顔に
ミドリは顔が一気に熱くなるのを感じ
思わず顔を逸らした。
「あ、あの…びっくりしました。あんなに速く飛ぶこともできるんですね。」
「こんな狭い場所では最高速度は出せないがな。」
ペルは周りを見まわしながら、そばのベンチへ腰掛けたので、ミドリも隣に座った。
無意識に人ひとり分ほどの距離を空けている。
宮殿の壁に囲まれているとはいえ
兵士たちの訓練も行われるほどの広い中庭を
『狭い』と言ってのけるペルに
思わず「かっこいい…」と呟いた。
「慣れたか?ここでの生活は。」
「あ、はい。まだまだ勉強不足ですが…とても充実しています。」
「大変だろう。ビビ様のお相手は。」
「いえ!公務に関することは難しいこともありますが、やりがいのあることばかりだし、とても良くしていただいています。」
楽しそうにそう話すミドリに
ペルは心底安心し、嬉しくなっていた。
出会った頃からは想像もつかないほど
彼女の背は真っ直ぐ伸び、視線は下でなく前を向き
何より表情は晴々とした笑顔を浮かべていたから。
「いい顔になったな。」
嬉しそうなペルの笑顔に
ミドリの胸はまたドキドキと大きく脈打つ。
ペルさんが定期的に会いに来てくれていた頃は
こうして向き合って話をすることがよくあった。
なのになぜだろう。
前よりも緊張しているみたい。
会いたいと思っていたはずなのに
真っ直ぐに目を見るのは恥ずかしい。
でも少しも嫌じゃない。
心臓を掴まれているように苦しいのに
このままこうしていたいとさえ思える。
自分の中に芽生えはじめた、不思議な気持ち。
「ペル様は、いつもここで飛行訓練されているんですか?」
「…あァ。兵士たちの相手をしているときがほとんどだが、それが終わればここで1人で鍛錬していることが多いな。」
「あの…邪魔はしないので、時々見に来てもいいですか?ペル様が飛んでるところを見ると、気持ちがスッと軽くなるというか、うまく言えないんですけど、見ていて気持ちが良いんです。」
あなたが飛ぶ姿が大好きなんです。
そう言いたかったけど、なぜか言えなかった。
「そうか。好きにしたらいい。」
少し照れくさそうに笑ったペルさんに
またあの不思議な気持ちになる。
なんだか欲張りになってしまう
この気持ちの正体に
私はだんだんと気付き始めていた。