第三章 〜私の未来〜
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「遅くなってすまなかったな。」
少しして落ち着きを取り戻したミドリは
涙を拭い、ブンブンと首を振る。
「……本音を言うと…少しだけ期待してしまっていました。もしかしたら、来てくれるかもって。ペルさんは…お母さんとは違うって……」
「そうか。」
ミドリの本音にペルは少し嬉しそうに笑った。
「私はもう、あそこには戻らなくて良いんですね。」
「あァ。今ごろ国王軍の者たちが店に押し入っているころだろう。法を破っていた店だ。時期なくなる。」
「……あの家にも…」
「いいんだ。帰らなくていい。」
安堵の息が漏れる。
これからはもう、自分は自由だ。
その喜びを思いっきり噛み締めたかったが
すぐに不安が襲ってくる。
ミドリには金もない。
住む場所もない。頼れる人もいない。
これからどうしたら……
「……空を飛んでみたくはないか?」
空を見上げながら、ふとペルが呟いた。
「……え?」
唐突な発言に、不思議そうな表情をペルに向ける。
「……空を飛べる鳥に憧れていると言っていただろう。」
「あ、はい。そうですけど……」
ペルは一歩前へ出ると
戸惑うミドリに背を向けた。
「少し散歩しよう。」
ミドリは驚愕し、思わず後ずさりする。
ペルの姿が一瞬で変わってしまったからだ。
背中からは体の2倍はある翼が生え
腕は鳥の足のように、手先は大きく鋭い爪となり
身体中が黒と茶の羽毛に覆われた。
振り返った顔には尖ったくちばし。
しかし、こちらを見る優しい眼差しは
ペルそのものだった。
「ペルさん……?」
「黙っていてすまなかった。私は鳥になって空を飛べる。」
「………」
「背中に掴まれ。」
信じられないが、目の当たりにしてしまっては
信じるほかなかった。
まさか、人が鳥に変身するなんて。
驚きの表情はおさまらないが
両翼を広げ、頭を下げて飛び立つ姿勢となった
ペルに言われるまま、恐る恐るその背に乗る。
ペルが地面を強く蹴ると
その身体は一瞬にして空へ舞い上がった。
吹き抜ける風と感じたことのない重力に
ペルの服を強く掴み、思わずギュッと目を瞑る。
「もう陽が沈むな。」
ぽつりとペルが呟いて、ミドリは薄目を開ける。
そしてすぐに目を見開いた。
先ほどまで自分がいた街が遥か遠くに小さくなり
目の前に広がる砂漠に夕陽が暮れかけていた。
「きれい……」
オレンジに染まる砂漠を見て、思わず息を漏らす。
「夢見てるみたい…まさか、こんなふうに空を飛べるなんて……」
「悪魔の実の力だ。」
「悪魔の実……」
「この国の者は私の能力を皆知っている。世界は君の知らないことだらけだ。未来を諦めるのはまだ早い。」
「………」
ポロっと涙がこぼれ、ミドリの頬を伝い
それをペルに悟られないよう、指先で拭った。
「このまま宮殿に来ないか?働き口は私が調整する。」
「宮殿!?そんなっ…私にはそんな位の高い仕事なんて……」
「そばに置いておきたいんだ。私が。」
「えっ……」
「あ、いや……失礼な言い方だったな。なんと言うか、目の届く範囲にいてくれ。心配なんだ。」
ペルはそう言いながら困ったようにフッと笑った。
ミドリはその優しさに
ギュッと胸を掴まれたように痛くなった。
「……ありがとうございます。」
小さく呟くようにお礼を言いながら
ペルの首元に顔を寄せる。
ポロポロと溢れて止まらない涙が
うなじの羽毛に染みていく。
夕陽に染まるアラバスタの空。
その翼はほとんど羽ばたくこともなく空を切り
風の向くままに高く高くへと舞う。
いつの間にかミドリの涙は乾いて
表情は穏やかなものへと変わっていた。