第三章 〜私の未来〜
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「ミドリ、準備はできたか?」
ここへ来て練習させられた慣れない化粧を施して
用意されたロングのワンピースを着たミドリは
店長のところへ姿を現した。
「うん、まぁ悪くないな。予定通り今日からだ。うまくやれよ。」
「……はい…」
朝からずっと身体が震えていた。
客の指名を待つ控え室では
ここで働く年の近い少女たちが「頑張ってね」
「最初はキツイけどすぐに慣れるわ」などと
声をかけてくれたが、少しも気分はすぐれない。
——大丈夫だ。必ず助ける。
頭の中には、昨日のペルのあの笑顔が浮かぶ。
本当に、来てくれるのだろうか。
王国最強の戦士であるあの人が
自分なんかを助けに。
でも絶対に嘘をつくような人じゃないし
軽い気持ちであんな約束をするような人でもない。
彼を信じたい。
誰かに対してそんな気持ちを抱いたのは
初めてだった。
ーーーーーーーーーー
受付のカウンターには
少女達の写真がずらりと並ぶメニュー表があり
写真の下には各々の名前と
簡単なプロフィールが書かれている。
「この子にする。まずは外へ出たいんだが。」
店を訪れた男はミドリの顔写真を指さした。
「はいはい。お客様お目が高い。この子は今日がデビューなんですよ。デートから希望の場合の料金は…」
店が開店し、しばらくして
店長からミドリにお呼びがかかった。
ついにこの時が来てしまった、と
ミドリは息を呑んだ。
ペルはまだ現れない。
意を決して店先へ顔を出すと
体格が良く、比較的若い男性客が待っていた。
「ミドリです。ご指名ありがとうございます。」
ここで練習させられた よそ行きの笑顔を作り
男に微笑む。
これまでどんなに辛いことにも耐えてきたが
この瞬間は、今までにないくらいに身体が震えた。
「いってらっしゃいませ。」
店長に見送られ、男性の隣を歩いた。
ミドリの初めての客は
外出や食事をしてから店に戻ってくるという
デートコースでの利用だった。
腕を組んではいるが、特に会話はない。
何か話をして盛り上げた方がいいのだろうか、と
考えたが、これからのことを思うと
恐怖でそんな余裕はなかった。
こうして男に体を売って隣を歩いている自分が
とても恥ずかしかった。
こんな姿はなるべく誰にも見られたくない。
それは前から常に思っていたことだったが
いつも顔を隠してくれていたストールはもうない。
ミドリはできるだけ首をもたげて
顔を下に向け、ただ男の横を歩いた。
「……あの、どちらまで…?」
会話のないまま、通りを進み続け
一向にどこかの店に入る気配もない相手に
少し不安になり、勇気を出して話しかけてみた。
「もうすぐだ。」
男は一言そう答え、歩き続ける。
店のある通りからは遠ざかり、人気のない
路地へと入ったところで男が歩みを止めた。
「お待たせいたしました。ペル様。」
男の言葉にハッとして、顔を上げる。
視線の先にはペルが立っていた。
まさか、本当に……
言葉を失うミドリの背中を隣の男が優しく押す。
「行きなさい。」
男は変装した国の兵士だった。
ミドリは彼に頭を下げ、ペルの側へ駆け寄った。
「ご苦労だったな。後は頼んだぞ。」
「はっ!」
ペルに敬礼をして、兵士は去っていった。
その背中が見えなくなると
改めてミドリは隣のペルを確認する。
本当に、来てくれた。
「言っただろう。期待してくれって。」
またあの優しい微笑みを向けられ
視界が涙で滲んだ。
「うっ…っ、うあぁぁぁぁ……」
緊張の糸が切れ、子どものように声をあげ泣いた。
ペルの大きな手が
ミドリの頭をポンポンと優しく撫でた。