第二章 〜私の憧れ〜
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毎週水曜日の夕刻あたり。
ペルさんが店に顔を出してくれるのは
大抵その時間だった。
私はその日を楽しみに
一週間、また一週間と淡々と過ごす。
相変わらず繰り返される家族からの仕打ちも
その日のために乗り切ることができた。
ペルさんの話は私にとってどれも新鮮で
誰かと過ごすことを、こんなにも楽しく
こんなにも有意義に感じたのは初めてだった。
「いつも仕事の邪魔をしてすまないな。」
「とんでもないです!私、楽しいことなんてこれっぽっちもない毎日だったけど…ペルさんとの時間はとても楽しいです。」
最近はペルさんの前では
ちゃんと笑えてきているような気がした。
少しずつ少しずつ、心からの笑顔で。
私の痛みを知ってくれている人がいる。
それだけで、とても心が救われた。
世の中そんなに捨てたもんじゃない、と
教えてくれた人。
ーーーーーーーーーー
毎週水曜日の夕刻あたり。
見回りの途中の十数分。
私が彼女のために作ってやれるそれだけの時間が
私にとっても有意義なものだった。
いつも私ばかりが話をして
彼女はただそれを静かに聞いて。
時に質問をしてくれたり、時に笑ってくれたり。
最近、その彼女の笑顔が
少しずつだが変わってきた気がする。
いつも俯き加減だった表情が、本当に少しだけ。
例えば、足元だった視線が
数メートル先の地面を見る程度の差だが
その些細な変化が嬉しいものだった。
その反面、これだけのことしかできない自分に
腹も立ち、焦りも感じていた。
明るくなってきてはいるが、家族のせいで
いつその笑顔が壊れるかもわからない。
彼女が「助けてくれ」と一度でも頼ってくれれば
力づくにでもあの家から引き剥がす覚悟はあった。
一週間任務をこなし、また水曜日が来た。
「また”巡回”か?」
支度をしているペルへ
通りすがりのチャカが皮肉を込めて声をかけたが
ペルは気にもせず笑顔を見せる。
「あァ。おかげであの辺りの犯罪が減ったようだ。」
「それはよかったな。お前の絨毯屋通いも無駄じゃなかった。」
ハハッと笑いながら去っていくチャカに背を向け
宮殿を出た。
絨毯は売れているだろうか。
傷は増えていないだろうか。
実際にアルバーナでの犯罪が減っていることを
彼女にも教えてやろう。
そんなことを考えながら街中を見回り
絨毯屋を目指す。
中央通りからひとつ裏に入った通りへ。
いつもの場所。
いつもの店。
いつものカウンター。
しかし、そこにもう彼女の姿はなかった。