第二章 〜私の憧れ〜
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その日の夜。
「詳しくは話してくれないんだが、どうやら家族からひどい扱いを受けているらしい。」
王宮の談話室で
ペルは同じ護衛隊副官で、友でもあるチャカに
彼女のことをそれとなく話した。
「最近時々いなくなると思ったら、そんなところへ行っていたのか。何が巡回だ。」
「失礼だぞ。ちゃんと仕事もしている。」
チャカは親友の行動に呆れ
あまり真剣に話を聞こうとしなかったが
ペルはテーブルのバスケットから
バナナを1本手に取り、それを差し出す。
チャカは受け取ったバナナの皮を剥きながら
仕方なく席に着き、話を聞いてやることにした。
「会うたびいつも元気がなく、顔色も悪かったんだ。今日は顔に痣を作り、手首は傷だらけだった。近隣の者の話から虐待も考えられる。」
「それはまァ、気の毒だが。」
「……家族から離して…ここに身を置いてやるわけにはいかないだろうか。」
ペルの突然の申し出に
チャカは口に頬張ったバナナでむせそうになる。
「っ…お前は何を考えている!そんな身元もわからない人間を宮殿に入れられるか!」
「ならば、せめて住める場所と働き口を与えてやれないものか。」
「そんな人間、この国にどれだけいると思う。全てを救うことはできない。我々にできるのは、この国をよりよい国へしていくことだけだ。」
「………」
無理を言っているのは承知している。
しかし、目の前で苦しむ少女ひとり救えずに
何が”国の護衛隊”だろうか。
口を紡ぎ、眉間に皺を寄せ
納得のいかないような表情で黙り込むペル。
あまり無茶を言うタイプではない彼が
ここまで引き下がらないのは珍しかった。
この件に関しては頑固で強引さもある。
ペルの意外な一面にチャカはある疑惑が浮かび
まさかとは思いながらも恐る恐るそれを聞いた。
「………お前、その子に惚れてるのか?」
その言葉にペルはポカンとした表情を浮かべた。
「まさか。10以上も年の離れた娘だ。そんなんじゃない。ただ、目の前で苦しんでいるのを見過ごせないだけだ。」
そう答えるペルにチャカはホッとして
バナナの皮をクズかごへと放り込み、立ち上がる。
「ならば、もう会いには行くな。」
そのままペルに背を向け、行ってしまった。
チャカの背中を見送りながら
ペルは小さくため息を吐いた。
やはり理解してはもらえなかった。
無理を言っているのは自分でもわかっていた。
国も関係はないし
惚れているとかそういう問題じゃない。
私はただ、彼女の本来の笑顔を見たいだけだ。
あんな力なく全てを諦めたような
無理に作った笑顔ではなく
心の底からの素直な笑顔を。