プロローグ
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私はいつも、下ばかり見ていた。
「この役立たずが!!」
「ごめんなさい……」
「おれの視界から消えろよ ブス!!」
「すみません、すぐに……」
顔を上げれば、生意気だと叩かれたし
鏡を見れば、自分の表情はいつも酷い。
そんな顔を誰にも見られたくなかったんだ。
いつからか
小さく背を丸め、視線の先は常に足元。
だから
空の青さも、その広さも
私は知らなかった。
きっと知らないままだった。
あなたに出会わなければ。
〜あの空へ〜
太陽の光が熱く熱く照りつける。
その熱さにも負けないほどに活気あふれる街中。
行き交う人々の流れを、店の中から眺めていた。
いつも思う。
ここで生活している人達の中で
自分は何番目に幸せなのだろう……
「ママみて!」
ふと、母の手を引く5歳くらいの少女が
店の前で立ち止まった。
「すっごくキレイだよ!」
そのまま商品に吸い寄せられるよう
店内に入ってきたので、いつも頭から被っている
ストールを直し、姿勢を正す。
「いらっしゃいませ。」
「まぁほんと!素敵ね。」
子どもに手を引かれるままにやってきた母親も
それらに目を輝かせる。
が、すぐに彼女の手を自分の方へと引き寄せた。
「でもね、今日は絨毯を買いに来たんじゃないのよ。」
「え〜」
「ほら行くわよ。ごめんなさいね。」
「いえ!またお待ちしてます。」
「おねえちゃんバイバイ!」
「うん。」
私に向かって眩しい笑顔を向けてくれた女の子に
ぎごちなく手を振って見送った。
手を繋ぎ、笑い合って、並んで歩く親子。
街の中では珍しくもない光景だけど
そんな幸せそうな姿を羨ましい目で見てしまう。
自分へと向けられる
あんなに優しい顔は知らない。
繋いだ手の温もりも知らない。
記憶の隅に残る、顔も思い出せない母親。
——ごめんね、ミドリ。必ず迎えに来るから。
——ごめんね……
涙ながらにそう言い残し、背を向けた母は
二度と現れなかった。
愛を知らない私。
ここで生活している人達の中で
自分は何番目に幸せなのだろう……
きっと、うんと下の方。
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