咲く菫色/クラッカー
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「……今から、すげェ恥ずかしいことを言うぞ。」
視線と視線が交わったまま
クラッカーは掌に乗せていたミドリの手を
ギュッと包み込むように握り
意を決してそう言った。
「え……?」
「口にしたら顔から火が出そうだが……おれの態度はわかりにくいらしいし、どうやらちゃんと言葉にしないとお前には伝わらないようだから……言う。」
「は、はい。」
クラッカーは大きく息を吸い、それを深く吐いた。
緊張が伝わり、ミドリもごくりと唾を飲む。
「おれは、お前を愛してる。」
頬を赤く染めてはいても
緊張しているとは思えないほど
真っ直ぐにミドリの瞳を見つめて
堂々とした態度で伝えられた。
「愛してるから、結婚を申し込んだんだ。」
こんなに真剣で凛々しいクラッカーは初めてで
その全てに目を奪われた。
優しく握られている手と同じように
心臓もギュッと握られたような感覚になる。
締め付けられて、苦しくて、でも痛くはない。
とても幸せな気持ち。
「その長い黒髪も、白い肌も、小さな体も、全てが愛おしい。」
次々に浴びせられる甘い言葉に
頭はクラクラして、声も出せない。
目の前の大好きな人から、目を逸せない。
ミドリの大きな瞳に見つめられ続け
クラッカーの方が耐えきれずに視線を下げる。
「お前が、主人のおれに逆らえないから仕方なく結婚を受け入れたというのなら、正直にそう言ってくれ。別に怒りはしない。」
ミドリの手を握る自分の左手の上に右手を重ね
さらにそれを額へと寄せた。
「おれはお前と一生そばにいたい。そのために努力する。欲しいものがあるなら何でも与えるし、できるだけ優しくもする。」
とても大切なものに身を寄せるような
そんな姿勢に、ミドリの体はさらに熱くなる。
「お前に愛されるよう努力する。」
十分すぎるほどの愛情を感じて
恥ずかしくなったミドリは珍しく声を荒げた。
「け、結構です!」
その声にクラッカーは少し驚き、顔を上げる。
「いえ、あの……もう十分です。」
「……どういう意味だ。」
「努力なんて必要ないです。私はすでに…クラッカー様を愛していますから。」
「!!」
「………」
驚いて言葉を失うクラッカーと
火が出そうなほどに顔を赤くするミドリの間に
柔らかい風がふわりと流れ、髪を揺らした。
「クラッカー様が花壇の花とともに私を見つけ出してくれたときから…私はあなたのことが大好きです。」
「………」
「でもメイドである自分が、主人であるクラッカー様にそんな気持ち…非常識だと悩んでしまって……昨日はああいう態度を取ってしまいました。すみません。」
恥ずかしさから顔を背けて
みるみる縮こまっていくミドリの顔を
愛おしそうな瞳で覗き込む。
「ミドリ。」
「……はい。」
「こっちを見ろ。」
「ダメです。恥ずかしくて…顔をあげられません。」
「ちゃんと、顔を見て言いてェ。ミドリ。」
「………」
観念して真っ赤な顔を上げると
真っ直ぐに自分を見つめる視線と目が合った。
「おれと、結婚してくれ。」
ポロッと、大きな瞳から涙が溢れた。
ミドリは返事の代わりに
深く頷くだけで精一杯だった。
クラッカーはポケットから細長い小箱を取り出し
握っていた手に乗せる。
ミドリがそれを開くと、中には
薄紫の水晶・アメジストのネックレス。
それは小さくも可愛らしい花の形をしていた。
「スミレ……」
「お前に教えてもらった花だ。」
「クラッカーさんの髪と同じ色ですね。」
手の中のネックレスとクラッカーを交互に見て
嬉しそうに笑う。
つられるようにクラッカーも優しい瞳になった。
「ミドリ。」
名前を呼び、その頬に手を添えた。
「自分でいいのか…とか、もう言うな。」
上を向かせ、額と額をピッタリと触れさせる。
「お前がいいんだ。忘れるな。」
「はい、クラッカー様。」
空と海の間
咲き誇る色とりどりの花々を背景に
2人は顔と顔を寄せ合った。
…fin