咲く菫色/クラッカー
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——数日が経ったある日
クラッカーの屋敷には大きな影が2つ。
シャーロット家・三男のダイフク
そして四男のオーブンであった。
「すみません、もうすぐ戻られると思うのですが…」
クラッカーはこの日、大臣としての仕事で
屋敷を出ており、ミドリは緊張した面持ちで
大広間にいる2人にコーヒーを差し出した。
「かまわねェよ。おれたちも急に来たからな。」
「だから事前に連絡をしろと言ったんだ。」
「いいじゃねェか。暇だったろ。」
静かにコーヒーをすするダイフクと
上機嫌に笑うオーブンを交互に見上げる。
ミドリが目の前でこの2人を見るのは
初めてのことで
クラッカーが小さく感じられるほどの迫力に
身を縮ませ、隅の方で立っていた。
クラッカー様、早く帰って来てください……
心の中でこっそりとそう呟く。
「ミドリっつったか。」
「は、はい。」
「こんなのはもうお前の仕事じゃないんだろ?」
オーブンが手に持ったコーヒーカップを見せる。
「いえ、そんな…まだ正式に妻になったわけではないですし、ずっとやってきたことなので、動いていないと落ち着かないんです。」
「なるほどな。身についちまったもんはしょうがねェな。」
無口なダイフクに対して豪快に笑うオーブンに
話しやすさを感じ、ミドリは少し安心した。
ーーーーーーーーーー
「お帰りなさいませ、クラッカー様。ダイフク様とオーブン様がいらしてます。」
仕事を終えて戻ってきたクラッカーを
屋敷の執事が出迎える。
「あ?なんだ、聞いてねェぞ。」
「クラッカー様の婚約を聞き、駆けつけてくださいました。大広間にいらっしゃいます。」
「しょうがねェな…」
少し面倒には思ったが
兄と会うのは久しぶりだったせいか
満更でもない様子で大広間へと向かう。
と、開かれたままのドアの向こうから
オーブンのあの大きな声が響いてきた。
「33歳か!じゃあメリゼと同い年だな!」
「そうですか、メリゼ様と。屋敷を出ることもほとんどないですし、まだご兄弟皆様のお顔を存じ上げなくて。」
「どうせ覚えきれねェし、必要ねェよ。」
廊下から応接室を覗くと
我関せずと、ただただコーヒーを飲むダイフクと
その隣で談笑するオーブンの姿。
さらにその横に立ち、楽しそうに笑っている
ミドリの姿が目に入った。
途端、ズカズカと3人の元へ歩みを進める。
それに気付いたオーブンとミドリが
「よう、やっと戻ったか。」
「お帰りなさいませ。クラッカー様。」と
それぞれ声をかけたが、何も答えることはなく
勢いのままにミドリの手を掴むと
すぐに引き返し、廊下へ出た。
「楽しそうに話してるんじゃねェよ。」
ミドリにだけ聞こえる程度の静かな声が響いた。
どうやらクラッカーは怒っているようだ。
「おれの妻になるんだろ、お前は。自覚が足りねェな。」
2人に少しでも退屈を感じさせないようにと
役不足ながらも話し相手をしていたが
どうやらそれがいけなかったようだ。
「申し訳ありません。あの…今後は気を付けます。」
「いや……このままおれの部屋へ行っていろ。」
「えっ……あの…勝手にお入りするわけには……」
「だから自覚を持て。すぐにおまえの部屋にもなるんだろ。」
自分で言いながら、その時を想像したのか
クラッカーの顔が耳まで赤く染まった。
同時に、同じ理由でミドリの頬も赤くなる。
「と、とにかく!おれが戻るまで待ってろ。わかったな?」
「はい、クラッカー様。」
廊下へ消えていく小さな背中を見送り
またひとつチッと舌打ちをする。
きっとまた、接し方を間違えた。
そうわかってはいても
兄相手に楽しそうな笑顔を向けているところを
見てしまったせいで頭に血が昇っていた。
自分の器の小ささに呆れるが
おれの前では
あんな楽しそうに笑っていたことはない。
「嫉妬深い男は嫌われるぞ。」
いつの間にかクラッカーの後ろに立っていた
オーブンが呆れたようにため息を吐いた。
「お前の帰りが遅ェから、かわりにおれ達の相手をしてくれていただけだろ。」
「全くだ。いつまでもガキだな。てめェは。」
ソファに座ったままのダイフクも深く頷く。
「うるせ!何しに来やがった。」
「婚約した弟を祝いに来ちゃ悪ィのか?」
「あと嫁の顔を拝みにな。」
「暇人どもが!さっさと帰れ!」