咲く菫色/クラッカー
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シャーロット家10男・クラッカーの婚約は
大きな事件として
ホールケーキ・アイランドを震撼させた。
彼がスイート3将星のひとりという
兄弟の中でも大物であること、
齢45にして結婚を決めたことはもとより
万国の住民や兄弟姉妹たちが驚いた一番の理由は
相手がただの屋敷の使用人であることだった。
「特例だよ!お前はこれまで家族のために多くの手柄を立ててきたからね!まったく…ただのメイドを嫁にするだなんて、一体何を考えてるんだい。」
リンリンは最後までクラッカーの婚約相手に
納得していなかったが、クラッカーも絶対に
諦めるつもりはなかった。
「ママが許してくれないなら、ミドリを連れて出ていくつもりだ。」
そう伝えたら、最後は呆れて文句を言いながらも
渋々この婚約を承諾した。
ーーーーーーーーーー
「クラッカー様。お帰りなさいませ。」
「おう。」
リンリンの元から戻ってきたクラッカーを
屋敷の玄関で出迎えたミドリは
遠慮がちに隣を歩いた。
「大丈夫でしたか?」
「問題ない。お前は何も心配するな。」
「あの……本当に私でよろしいのでしょうか?」
「あ?何を心配してる。」
「私なんてただの使用人ですし…クラッカー様にはもっと格式の高い方の方が——」
「問題ねェって言ってるだろ。」
「はい…すみません……」
ミドリは怒られた子どものようにシュンとして
それ以上は何も言わなくなった。
チッとひとつ舌打ちをする。
それはミドリに対してではなく
彼女にうまく優しくできない自分に対してだった。
怖がらせたかったわけじゃない。
そんな顔をさせたかったわけじゃない。
ずっとただの使用人だったミドリが
おれに気後れするのは当たり前だ。
自信を持たせてやりたいのに。
おれの婚約者はお前以外に考えられないと
伝えたいのに。
情けないことに、おれはおれで不安だった。
きっとこいつは
——おれの妻になれ
——はい、クラッカー様
あの時、おれに逆らうことができなかっただけだ。
喜んでこの話を受けたわけじゃない。
このおれを愛しているわけじゃない。
反対におれは
隣を歩くこの小さな存在が愛おしくてたまらない。
その手に触れたい。
強く抱き締めてしまいたい。
口付けもしてみたい。
欲望ばかりが膨れ上がって
気持ちは焦っていくばかりだ。
どうしたら使用人という立場を忘れてくれるのか。
どうしたら、このおれを愛してくれるのか。