第一章 〜わたしの王子様〜
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王子たちが寝静まった、その日の夜。
ミドリは自分のベッドに座り
手帳に挟んである小さな写真を取り出した。
同室の向かいのベッドではマリナが寝ているため
手元灯りだけが控えめに灯っている。
写真に写っているのは
幼いミドリを真ん中に、幸せそうな笑顔が3つ。
お父さん… お母さん…
心の中で2人を呼んで、静かに涙した。
お父さんとお母さんが恋しい。
2人に会いたい。
膝を抱えて、自分の腕で自分自身を
ギュッと抱き締める。
幼い頃、私が泣いたり、悲しいことがあると
いつも両親がこうして抱き締めてくれて
そして優しく頭を撫でてくれた。
そうしてもらうと、すぐに涙が止まった。
とてもとても、幸せな毎日だったけど
今、私を抱き締めてくれるお父さんとお母さんは
もういない。
ーーーーーーーー
——4年前。
私がまだ15歳の頃。
暮らしていた「エストピア」という国は
隣国との陣地争いが深刻化し、戦争となった。
終始優勢を保っていたので
エストピアがこのまま勝利するだろう、と
国民の誰もがそう思っていたとき
敵国が、ジェルマを呼んだ。
見る見るうちに軍の勢いはなくなり
戦いに巻き込まれ、業火に包まれた私たちの町。
仲の良かった友達。
一緒に育った幼馴染み。
大事な人たちの生存は確認できないままだった。
私の国は戦争で負けた。
誰がどう見ても、そうだった。
そして、父と母は私の目の前で命を落とした。
「お父さんっ!!お母さんっ!!」
「ミドリ……」
息を引き取る直前、母は力無く港を指さした。
「逃げなさい……ここにいては…ダメ……」
「嫌だよ!お母さん!!一緒にいる!!」
「お願い……あなたは……生きて……」
「お母さん!!お母さんっ!!うぅっ……」
この時のことはよく覚えてる。
動かなくなった父と母を残すことに
後ろめたさを感じながらも必死で港へと走った。
目に入った一番大きな船へ向かうと
それがジェルマの船だった。
幸い、兵士たちはほとんど船を降りていたため
中には船番を任されていた召使いたちが
数人いるだけだった。
私を不憫に思った彼らは、ヴィンスモーク家に
私の存在を明かすことはしないでくれて
私は使用人として
ジェルマに身を置かせてもらうことになった。
父も母もいない。
一緒に育った友達も、どうなったのかわからない。
ひとりぼっちな私は
ここで生きていくしかない。
ーーーーーーーー
”いい香りの紅茶だな ありがとう”
私に向けられたサンジ様の優しい笑顔が
両親の暖かかった笑顔と重なって
あの時、涙を必死に堪えていた。
今でも思い出すと、胸がホッと暖かくなる。
ここの王子が皆、あの人のようだったら……
そう願わずにはいられなかった。
それならきっと、幸せな毎日になったことだろう。
サンジ様のように優しくて素敵な人が
いつか目の前に現れて
きっと私をこんな毎日から救い出してくれる。
私だけを愛してくれる王子様がいつか、きっと。
わかってる。
そんなのおとぎ話の中だけだって。
でもいいじゃない。
こんな希望も見出せない毎日の中
少しくらい幸福な夢を見たって。
そんな明るい未来を夢見て
あの日
たまたま私がジェルマの船に乗り込んだことは
きっと何か意味のあることだったんだと信じて
私はずっと、この場所で
戦っていく。