最終章 〜私の居場所〜
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あいつが
今回の任務についてくると言い出したときから
おれはずっとイラついていた。
この女、これを機に国へ帰る気じゃないだろうな。
そう予感したから。
あの時。
——無事だったんだな!まさかお前に会えるなんて!!
——ヨルダ…あなたもっ……
とんだ茶番を見せられ、フツフツと怒りが湧いた。
が、あの男の腕の中で、涙を流しながらも
心底嬉しそうに笑っているミドリの姿が
目に焼きついて離れなかった。
おれがミドリをあんな笑顔にしたことがあるか?
最近のあいつはいつもどこか苦しそうで
本音を見せることもないし、愛想笑いしかしない。
一時は何かが通じ合った気でいたのに
おれはミドリを自分のモノにすることしか
頭になかった。
だからミドリはおれから離れたんだ。
結局おれがあいつにしてやれることは
あいつを解放してやることだけなのかもしれない。
それが”大事にする”ということなのかもしれない。
船を降りるミドリに別れの言葉も言わなかった。
これでよかったんだ。
必死で自分に言い聞かせた。
出航し、島が小さくなり、やがて見えなくなる頃
泣きそうになっている自分がいた。
こんなわけのわからない感情は生まれて初めてだ。
気付いたらレイドスーツに身を包み
船を飛び出していた。
正解なんてわからない。
大事にできるかなんてわからない。
ただおれは、あの女を失いたくない。
それが全て。
「やはり、おれのそばにいろ……と言っても、もう遅いか?」
「えっ………」
「お前はおれのものだ。」
まさか、自分を引き留めに来てくれた。
砕かれたと思っていた淡い期待が叶った。
同時にミドリの頭は混乱する。
ヨンジの方からここに残れと言ってきたのに
どうして今さら……
「でもヨンジ様…昨日は好きにしろって……」
「……お前を大事に思うなら、そうするべきだと思ったんだ。でも無理だったよ。」
伸ばされたヨンジの大きな手が
ミドリの一回り小さな手を包む。
力強さの中にある、意外なほど優しい温もりに
心臓が跳ねた。
「失いたくないからはっきり言う。おれはお前が好きだ。心底惚れてる。」
真っ直ぐな告白に言葉が出なかった。
「てめェが教えたんだろ。おれに。こんな面倒くせェ感情を。そのお前が、なかったことにするなよ。」
拭ったはずの涙がまた溢れそうになり
みるみる泣き顔へと変わっていく。
握っていたミドリの手を引き
ヨンジはその全身を腕の中に閉じ込めた。
「お前も認めろ。惚れてるだろ。このおれに。」
耳元で囁く。
この男のこんなにも優しい声は初めてだった。
「……意地張ってごめんなさいっ。」
すがるようにヨンジの背中に腕を回し
胸に泣き顔を押し付けた。
「ヨンジ様が好きです。」
涙でぐちゃぐちゃの告白。
やっと、伝えられた。
「……泣くなよ。」
背中を抱き締める腕に力を込めながら
もう片方の手でそっとミドリの髪を撫でる。
「もう一回……」
「え?」
「もう一回言ってくれ。」
「……好き、です…」
「もう一回。」
「……好きです。ヨンジ様。」
「もう一回。」
「もう、恥ずかし——」
困って顔を上げたミドリに
すかさずヨンジの影が重なる。
唇を押し付けた。
そのまま頬に手を添えて、涙を親指で拭い
顔にかかる髪を指でかきあげるように耳にかけ
その間も何度も角度を変えて、離れては吸い
ミドリの唇を堪能した。
これまで我慢していたものを発散するような
長い長いキスだった。
名残惜しくも唇が離れれば
愛おしそうにお互いを見つめ合う。
「……大好きです。ヨンジ様。」
口から自然と言葉が溢れ
ヨンジの背中に手を回し、再び抱き付いた。
たまらずヨンジは目を閉じて
自分よりも小さな背中を強く抱き寄せた。
「だから最初から認めとけばよかったんだ。この強情女。」
大事なものを、愛おしむように。