最終章 〜私の居場所〜
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「わっ!ヨンジ様!」
ミドリが船に乗り込むと、張本人が目の前に現れ
慌てふためき、とりあえず深く頭を下げる。
「あの、船を離れて申し訳ありませんでした。」
「好きにしろと言っただろ。別に構わない。」
そこまで怒っている様子はなく、ほっとすると
ヨンジが歩き出したので後を追った。
「取引の方は?」
「問題ない。明日には船を出す。」
「そうですか。」
ふと、ヨンジが足を止め
同じように後ろで立ち止まるミドリへ振り返った。
「ジェルマを出るのか?」
「えっ……」
「この島に残るのか?」
「えっと……」
自分の頭の中を覗かれていたかのような
突然の問いかけ。
返答に困り、ミドリは言葉が出なかった。
「こうなると思っていた。お前は帰るつもりはないと言ってたが…実際に故郷をその目で見たら帰りたくなるだろうと。」
「そんなこと……」
ない、とは言い切れなかった。
ヨンジの言う通りだ。
本当に、ここに到着するまでは
ジェルマを出ることなど少しも頭になかった。
しかし、実際に故郷の現状を見て
両親が恋しくなり、昔を懐かしく思い、
幼馴染からの誘いによって”ここに残る”という
選択肢がミドリの中に生まれてしまった。
はっきりと答えないミドリに苛立ちながら
ヨンジは続ける。
「さっきの男はなんだ。てめェの婚約者か何かか。」
「いえ、友達です。家が近所だったから小さい頃からずっと一緒に育ってきて……」
「ずいぶん親しそうだったじゃねェか。似たようなもんだろ。」
「だから婚約者じゃないですし、ヨンジ様には関係ないことです。」
どう選択するべきか判断できない状況に
焦りから頭が混乱して、つい声を荒げる。
「………」
「………」
気まずい空気を破ったのは、ヨンジの方だった。
「……好きにしろ。」
「……え?」
「ここに残りたいなら残れ。召使いのひとりやふたり減ったって、私は痛くも痒くもない。」
「………」
「荷物をまとめて船を降りろ。」
そう言い放ち、背を向けて行ってしまった。
大きな船の中の廊下の隅。
ヨンジの背中が見えなくなると
ミドリは膝を抱えてうずくまった。
あの時のヨンジの顔が頭に浮かんだ。
——嫌ならそう言え。おれが嫌いだ、大っ嫌いだ、と。
きっと、あの時すでに
こうなることを予感していたのかも。
そう思った。
——そのくらいしてくれないと、おれはお前をやめられない。
苦しそうな顔に胸が締め付けられた。
今の私の正直な気持ちは……
この島に残ることを
ヨンジ様が引き留めてくれることを期待してた。
引き留めてくれたら
迷うことなくジェルマに帰ると決心できたのに。
でもそんなことを期待する資格、私にはない。
私は何度も、ヨンジ様を拒否してしまった。
本当は好きなのに…
あなたに引き留めてほしいほど、大好きなのに。
抱き締める膝に次々と雫が落ちる。
両親のお墓の前で、枯れるほど泣いたのに
今もなお、溢れて止まらない。
ヨンジ様を傷付けてきた私の方から
ヨンジ様を求めることはできない。
このタイミングで故郷に帰れるチャンスが
訪れるなんて。
”ヨンジ様の隣にあなたは相応しくないから
諦めなさい”って、神様がそう言ってるんだ。
そんな気がする。
”ヨンジ様はあなたの王子様じゃないのよ”って。
ジェルマの出発は明日。
私は……船には乗らない。