第一章 〜わたしの王子様〜
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食事を終えてもミドリが戻ってこないことに
ヨンジはイラついていた。
「おい、あの女はどうした。」
「申し訳ありません。今着替えに行っておりますので……」
「元から小汚い女が卵くらいで何が着替えだ。戻ったら私の部屋に来るように言っておけ。」
「承知いたしました。」
頭を下げるマリナに対してそう言い残すと
食堂を後にする。
——昨夜
一度はベッドに入ったが
なかなか眠れないことにイラついたヨンジは
夜風にでもあたろうと部屋を出た。
と、前方からクスクスと微かに廊下に響く笑い声。
召使いたちが身分もわきまえず
楽しそうに談笑をしている。
元々イラついていたヨンジは
そんな些細なことに更に腹を立てた。
あんなヤツらを気にしても意味がない、と
無視をしようとも思ったが——
——第3王子のサンジ様は本当に素敵な方だったね
不意に聞こえてきた兄の名前。
出来損ないであるその兄を褒め称え、自分たちを
馬鹿にするような言葉の数々に自然と体が動いた。
自分の存在に気付くと急に焦り出し
ペコペコと頭を下げる侍女に対して
ヨンジは心底腹が立った。
さっきまで楽しそうに
サンジの野郎の話をしていたくせに
おれの顔を見た途端、笑顔が恐怖に変わった。
それが妙にムカついた。
”この女、痛い目見させてやる”と、そう思った。
ホールケーキアイランドでのあの一件以来
誰もサンジなんかを話題にすることはなかった。
嫌な野郎の顔を思い出させやがって。
こいつのせいで、昨夜は余計に眠れない夜だった。
ーーーーーーーー
身なりを整えたミドリがヨンジの部屋へ行くと
ちょうどヨンジが出てくるところだった。
「遅い。」
「申し訳ありません!ヨンジ様。」
「少し出てくる。掃除でもしておけ。」
「かしこまりました。」
ヨンジの後ろ姿を見送りながら
ミドリは少しだけホッとしていた。
次はどんな嫌がらせが……と不安になりながら
戻ってきたが、言いつけられたのはただの掃除。
いつもやっていて慣れた仕事だし
ヨンジは行ってしまったのでひとりになれる。
掃除用具を揃えて再び戻ってくると
中に入って室内を見回した。
ヨンジは王子たちの中でも割と綺麗好きなようで
部屋が散らかっているということはほとんどない。
今回も特に大変なことはなかったが
些細なことで文句を言われないように
隅々までいつも以上に丁寧で完璧な掃除をした。
「窓も拭こうかな。」
あらかた終わったところで
ポツリと独り言をもらしてベランダへと出る。
ひんやりとした外の空気が
少し汗ばんだ体に心地よかった。
ベランダから脚立に乗りながら窓の外側を
磨くことに夢中になっていたミドリは
部屋の中の様子をあまり気にかけていなかった。
——ガチャン
不意に聞こえた音に手を止める。
その後も
ガチャン、ガチャンと続けて同じ音がし、
ミドリはそこで初めて事態に気付いた。
「やばい」と。
慌てて脚立を降りて中を覗くと
いつの間にか戻ってきていたヨンジの姿。
目と目が合い、ニヤリと笑うと
パチリと部屋の電気を消し、出て行ってしまった。
窓に手をかけて開けようとするが
案の定、開かない。
ベランダと室内を繋ぐ大きな窓。
三箇所ある鍵が内側から全てかけられていた。
完全に閉め出されてしまった。