最終章 〜私の居場所〜
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馬車に乗り、西へ向かった。
通り過ぎる町中は
ミドリの記憶とは違う姿に変わってはいたが
所々に面影を見つけ、その度に涙を誘われる。
しばらく馬を走らせた場所に
4年前の戦争で命を落とした者達のための
霊園が作られ、墓標が並んでいた。
その中のひとつに連なっている父と母の名前。
ミドリはその前に膝をつき
道中で用意した花を置いて、手を合わせた。
閉じられた瞼の間から
次々と溢れる涙が頬を伝う。
2人を亡くした悲しみを嘆いた。
ずっと会いたかったことを伝えた。
あの時、自分を生かしてくれた感謝を伝えた。
4年もの間、戻れなかったことを謝罪した。
2人のおかげで
今は元気に過ごせていることを伝えた。
長い時間、2人の墓の前にいた。
そこを離れる頃には、涙は止まり
笑顔とともに「また来るね」という言葉を残した。
ーーーーーーーーーー
港への帰り道
ヨルダは街中を簡単に案内してくれた。
ミドリの家があった場所。
ヨルダと通ったスクール。よく遊んだ公園。
あの頃と姿は違えど、確かにその名残りはあった。
「ヨルダ、もうここで大丈夫。」
港が見えてきたところでミドリがそう言うと
ヨルダは馬車を止めた。
「2人のお墓参りができてよかった。連れていってくれてありがとう。」
道端へ降りたミドリが手を振っても
ヨルダはまだ馬車を出さずにポツリと呟いた。
「……戻らなきゃいけないのか?ジェルマに。」
「え……?」
「帰ってこいよ。」
「………」
「ミドリをずっと待ってたよ。亡骸が見つからなかったから、お前だけは生きてるって信じてた。ずっと探してたんだ。まさか島を出ていたなんて……なァ、おれとここで生きていこう。」
「ヨルダ……」
「ミドリの家はもうないけど…おれの家でさ、2人でやっていけるさ。」
「……でも、今はジェルマに…ヨンジ様に仕えてる身だから……」
「そんなに大事か?あんなヤツが?お前のことなんかいらない、みたいな…嫌味なヤツだったじゃないか。あんな所、もうやめた方がいいよ。」
「………」
「考えておいて。おれは大歓迎だから。」
ヨルダはそう言い残し
ミドリの返事を待たずに馬車を出した。
——帰ってこいよ
幼馴染の言葉が大きく響く。
船までの帰路を歩きながら、頭は困惑していた。
ヨルダの言うとおり、このまま
この島に留まるのが一番いいのかもしれない。
まだまだあの頃の活気はないけど
戦争から4年、ずいぶん復興してきた。
ジェルマで、わがまま王子たちの相手をするより
裕福ではなくてもここで暮らしていたほうが
きっと平和な毎日になる。
お父さんとお母さんもこの場所に眠っている。
でも……
ジェルマでの暮らしを終わりに……
そう考えるだけで
ヨンジ様の顔が頭から離れない。