最終章 〜私の居場所〜
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その後、航海中は忙しそうなヨンジと
2人になれるチャンスはなく
出航から2日後、ミドリの故郷の島が見えてきた。
ついに、帰ってきた。
甲板の先端に立つと海の向こうに見える島。
その形はミドリが4年前に出た時と
何ら変わりなくそこに存在していた。
頭の中に蘇る。
町のそこら中から聞こえてくる怒号に銃声音。
建物の崩れる音。
泣き叫びながら逃げ惑う人々。
今でも事細かに思い出すほど、記憶に残っている。
ブルッと寒気がして、自分の体を抱き締めた。
「どうかしたのか。」
そう声をかけながら、任務のためレイドスーツに
身を包んだヨンジもミドリの隣に立つ。
「昔のことを思い出してしまって……」
こうして島は何ら変わらず存在しているのに
家も町も、家族も友達も、全て消えてしまった。
その現実が、ただただ苦しい。
「お前が連れて来いと言ったんだろ。しっかりしろ。」
ポンと、ヨンジの手がミドリの頭に乗せられる。
その温もりに涙を誘われるが
ぐっと堪え、ただ一度頷いた。
ヨンジ様の言うとおりだ。しっかりしなくちゃ。
しっかりとこの目で、現状を見つめる。
私はそのために船に乗ったんだ。
ーーーーーーーーー
港に船を着け、埠頭へ下りると
その国の兵士たちがヨンジを出迎えた。
この国こそが、4年前にジェルマを呼び
その力を借りて、ミドリの故郷である
エストピアを滅ぼした国。
とても大きな港町が栄えていた。
位置関係を確認すると、ここから西へ
1時間ほどの所にミドリが住んでいた町がある。
一刻も早くそこへ向かいたい気持ちを抑え
相手国の代表とやりとりをしている
ヨンジの許可を待った。
「……えっ……ミドリ…?」
名前を呼ばれた気がして、声の方へ顔を向ければ
少し離れた場所に佇むひとりの青年と目が合った。
「ミドリ!!!」
驚いた表情をした青年の大声が響き
その場にいた全員がそちらへ注目する。
「ミドリ!!ミドリだよな!!」
ものすごい速さでミドリの側へ駆け寄ってくる。
突然のことに身構えるが
その青年の顔を近くで確認するなり
ミドリの表情が変わった。
「あなた……もしかしてヨルダ!?」
「そう!そうだよ!」
嬉しそうに笑うヨルダ。
彼はミドリと共に育った幼馴染であった。
そしてミドリ 同様、4年前の戦争で人知れず
生き残り、これまで一人きりで生きてきた。
あのジェルマ66の船が来るという噂を聞きつけ
興味本位で港へ来たところ
彼女の姿を見つけたというわけだ。
再会できた喜びから、勢いのままに
ミドリを抱き締める。
「無事だったんだな!!まさかお前に会えるなんて!!」
「ヨルダ…あなたもっ……」
ミドリもまた、その腕の中で喜びの涙を流すと
すがるようにヨルダの腕に手を添える。
「あなたの家族は?それに他の皆も……」
悲しげに目を伏せて、ヨルダは首を横に振った。
「生き残ったのは…おれだけだ。」
「そう……」
「ミドリ、生きててくれて本当によかったよ。」
ヨルダが再び力強くミドリを抱き締める。
と、いつの間にかそばまで来ていたヨンジが
ヨルダの襟ぐりを掴み
ミドリから勢いよく引き剥がす。
いきなり体が浮いたヨルダは驚きの声をあげた。
「おわっ!!」
「こいつに気安く触るな。」
「ヨンジ様……」
今にも殴りかかってきそうな表情で
自分を睨んでくる相手を
ミドリが”ヨンジ様”と呼んだことから
ヨルダは2人の関係性を察知し、頭を下げる。
「も、申し訳ありません。つい…」
尚も自分を睨み続けるヨンジに萎縮しながらも
言われたとおりミドリには触れないよう
静かに話を続けた。
「ミドリ、時間があったらおれと来てよ。お前んちの墓へ案内したい。」
「私の…お父さんとお母さんの?」
「うん。」
「………」
行きたい。
ちゃんと2人の元へ、元気な姿を見せに行きたい。
そんな願いを込めて
ミドリはチラリとヨンジを見た。
「少し外してもよろしいですか?」
「……好きにしろ。今回の任務にてめェはいらない。」
「ありがとうございます。」
ヨンジの機嫌が悪いことは明らかだったが
このチャンスを逃すわけにはいかない、と
後でどんな罰でも受ける覚悟でヨンジに頭を下げ
ヨルダの後に次いで港を離れた。