最終章 〜私の居場所〜
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戦争に使うことを目的にジェルマで開発された
数々の兵器。
今回の取引に使われるそれらを乗せた
一際大きな船が国を出た。
船にはヨンジを筆頭に多くの兵士たち、
そしてミドリのような使用人が数人乗っている。
しばらくして、手の空いたミドリは
後甲板に出て、久しぶりの海の上を満喫した。
柵に体を預け、目を閉じると
心地いい潮風が頬を撫で、気持ちいい。
何より、自分の故郷に行くことができるせいか
気持ちが高ぶっていた。
「浮かれてやがるな。」
隣にやってきたヨンジは
楽しそうなミドリとは反対に
眉間に皺を寄せ、顔をしかめる。
「ヨンジ様は…何か怒ってます?」
「……別に。」
「……お茶でも淹れてきましょうか。」
どう考えても機嫌が悪いヨンジから
一度逃げようとする。
が、腕を掴まれ止められてしまった。
「いたっ」
「お前……ジェルマを出て、このまま故郷に帰るのか?」
「えっ……」
「そのためについて来たんだろ。」
言われて、ハッとした。
エストピアに帰る……?
このジェルマを出て……?
「………」
「………」
唐突な話にミドリは何も言えなくなり
少しの沈黙が続いた後、静かに沈黙を破った。
「私は……なんと言うか…復興した街を見て安心したいんです。誰か友達に会えたら、とも思います。生き残っているのかもわからないけど。」
「……そうか。」
「……国が滅んだ元凶だし、恨んだりもしましたけど…ジェルマはもう、私の家だと思っているので。」
「………」
「だから故郷に帰るなんてことは、考えてませんでした。」
ヨンジは掴んでいた腕を自分の方へ引き寄せ
正面からミドリを抱き締める。
「なっ……ちょっ、ヨンジ様っ!」
突然のことに取り乱したミドリが
バンバンとヨンジの胸板を叩くがビクともしない。
こんなところ、誰かに見られでもしたら…!
「離してくださいっ……私の嫌がることは、しないんじゃなかったんですか?」
「嫌か?こうされるのは。」
「………」
ヨンジの腕に力がこもる。
″嫌″じゃない。
昨日もそうだった。
この人が好きだと認めてしまったら
もう、拒否することは難しい。
ヨンジは何も言えないでいるミドリを覗き込む。
その表情は、どこか苦しそうだった。
「嫌ならそう言え。おれが嫌いだ、大っ嫌いだ、と。」
「え……?」
「おれの専属なんかもう辞めたいと。顔も見たくないと言え。そう言ってから……おれの前からいなくなれ。そのくらいしてくれないと、おれはお前をやめられない。」
胸がギュッと締め付けられる。
何か思い詰めているような、初めて見る表情だった。
もしかしたら、私はずっと
ヨンジ様のことを傷付けてしまっていたのかも。
自然と、その大きな背中に手を回した。
嫌なんかじゃない。
素直になりたい。
「……私は——」
「ヨンジ様ー!」
ミドリの言葉は
遠くからヨンジを呼ぶ兵士の声によって遮られた。
「……あの、呼ばれています。」
ヨンジは悔しそうに舌打ちをひとつして
コツンとミドリの額に自分の額を当てた。
「……昨日から邪魔ばかり入るな、くそ。」
そう言い残し、仕方なく自分を呼ぶ方へ向かった。
「………」
残されたミドリはその熱を冷ますように
頬へ手の甲を当てた。