第七章 〜大事な人〜
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何時間もかけ、部屋を元どおりの状態にし
汚れたシャツを洗濯場へ持って行って
担当の者へ託した後
ミドリは食堂でヨンジと合流した。
ヨンジはすでに、食事を終えたところだった。
まだ体調があまり良くならないのか
部屋で寝るというヨンジの後を追う。
「おい、片付けておけって言ったろ。」
ドアを開けるなり
ヨンジは怪訝な顔でミドリを見下ろす。
「え?」
「さっきまで何してやがった。」
部屋の中を覗くと、目の前の光景に言葉を失った。
元どおりに片付けたはずの室内が、荒れていた。
それどころか、クローゼットにかけられていた
シャツまでもが全て床に散乱し
紙くずのようなゴミがカーペットの上に散らばり
酒の空き瓶までそこらじゅうに転がっていた。
朝よりも、ひどい状態。
「どうして……」
「知るか。使えねェな、このアホ女。こんな部屋で寝られるかよ。」
「も、申し訳ありませんっ!」
ヨンジはチッと舌打ちをして、部屋を出て行った。
「すぐに片付けます!申し訳ありませんっ!」
廊下へ消える背中に向かって頭を下げながらも
元はと言えばあなたが散らかしたんでしょう…と
小言を言いたくなってくる。
でも、どうして?
確かに片付けたはずなのに。
朝と同じように、またゴミ袋を手にしながら
部屋を片付ける。
そんな中、気が付いた。
散らかった服は、朝には
クローゼットにかけてあったものだったが
散乱しているゴミや空き瓶は、確かに朝
まとめてゴミ捨て場に持って行ったものだった。
それをそのまま、袋からぶち撒けられたような。
……これもきっと、嫌がらせだ。
部屋を片付け終え
汚れたシャツを持って洗濯場へ向かった。
担当の侍女がいない時間帯だったので
仕方なく自分で洗濯機を回す。
後ろの乾燥室には、朝にミドリが持ってきた
ヨンジの服がかけられており
間も無く乾燥が完了するところだった。
「はぁ……」
来たついでに
これらのアイロンがけもしてしまおう、と思い
休憩がてらそばにあった椅子に腰掛けた。
その時だった。
——ガチャ
外から洗濯場のドアの鍵がかけられた。
「うそ!!」
ガチャガチャとドアノブを回そうとするも
やはり回らない。
ミドリは慌ててドアを叩く。
「すみません!中にいます!開けてください!!」
必死でドアを叩きながら、ミドリの頭には
以前バルコニーに閉め出された時の記憶がよぎり
ゾクっとした。
「ヨンジ様!やめてください!開けて!!」
その声も虚しく、何も反応はない。
仕方なくミドリは座っていた椅子に戻る。
やはり、こんなやり方は彼以外考えられない。
本当にひどい。
でも、寒空の下閉め出されたあの時よりも
非常な事態ではないし、私の気持ちも強くなった。
ここならきっと、そのうち誰かが開けてくれる。
ちょうどシャツの乾燥も完了したところだし
アイロンがけでもしながら待っていよう。
そんなふうに対処できる余裕があった。
そうしているうちに
突然ドアノブがガチャガチャと鳴った。
「あれ?」
外から誰かの声がし、一度離れたかと思ったら
また戻ってきて、ガチャリとドアが開いた。
「わ!ミドリ?どうしたの?鍵かかってたけど。」
入ってきたのは侍女仲間のひとりだった。
「なんか閉じ込められちゃってて…ありがとう、助かったよ。」
「そんなことある!?まさか中に人がいるのに気付かなかったのかな。ここあまり鍵閉めたりしないのにね。」
彼女は不思議な表情をしながら洗濯機を
回し始める。
「失礼しちゃうよね。本当ありがとうね!」
ミドリはちょうどアイロンがけを終えた
シャツを手に、洗濯場を後にした。
そのままヨンジの部屋へ向かう。
まさかまた散らかってたりはしないだろうな…
と嫌な予感を抱えながら、足早に廊下を歩く。
入った部屋の中は
ミドリが片付けた状態が保たれており
ホッと胸を撫で下ろした。
ヨンジを探しに行くと、談話室の
1番大きなソファへ横になっていた。
ミドリは一言文句を言ってやらないと
気が済まなかった。
興奮した足音で近付くと
閉じていたヨンジの瞼が開く。
「ヨンジ様!いい加減にしてください!」
いきなり噛み付くように喚いてくるミドリに
ヨンジの額に血管が浮かぶ。
「うるせェな。何なんだ、急に。」
「陰湿な嫌がらせはもうやめてください、って言ってるんです!」
「あァ?おれが何したってんだ。」
「とぼけないでください!ヨンジ様以外考えられないです!私の服を切り刻んだり、片付けた部屋を散らかしたり、閉じ込めたり…くだらないことばっかり……」
「……言ってる意味がわからねェ。」
ヨンジは呆れたようにそう言うと
背もたれへと向きを変え、ミドリに背を向けた。
正直まだ頭が痛くて、身に覚えのないことをうるさく言ってくるミドリの相手をするも面倒だった。
「とにかくもう!絶対にやらないでくださいね!」
「………」
フンっと鼻で息を吐いて
ミドリは談話室を離れる。
言ってやった。
思いっきり、言ってやった。
これだけ言えば、きっともう何もしてこないはず。
後半はほとんど相手にもしてくれなかったが
初めてヨンジを言い負かしたような
勝利をしたような
そんな誇らしく清々しい気持ちに満足していた。