第七章 〜大事な人〜
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第七章 〜大事な人〜
「あなたがヨンジ様ですか。とても素敵な方で緊張します。」
そう言いながらおれを見上げる女。
父上の言った通り、誰が見ても美人といえる。
品があり、育ちの良さもわかる所作。
”淑やかないい女”という印象だったが
縁談の断りを入れた瞬間、人が変わった。
「断るだなんて、許されるとお思いですか!?私はお会いしたこともないあなたに嫁ぐために、今日まで女を磨いてきたというのに!!」
キンキンと高い声でわめく、うるさい女だった。
向こうの王も一緒になって突っかかってくる。
面倒になり、手が出そうになったところで
イチジが大金の入ったケースを開けてみせた。
それで一件落着といったところだ。
帰りの船の上。
気が抜けたら、ふとあいつの顔が浮かんだ。
どんなに着飾った美人を前にしても
あいつには敵わない。
そう気付いたら無性に会いたくなる。
腕に抱いたあのやわらかい感触を
今すぐにまた感じたい。
口付けも、嫌というほどしたい。
きっとあいつも
おれのことを待ち侘びているに違いない。
早く会って、あいつに触れたい。
だが、そう思っていたのはおれだけだった。
——おかえりなさいませ。ヨンジ様。
おれが城を出る前と後で明らかに違う
他人のような、よそよそしい態度。
——ご結婚おめでとうございます。
平気で結婚を祝ってきやがったり
——ヨンジ様はこの国の王子で、私はただの使用人です。
突然立場だとか言い出して、おれと距離を取った。
「クソッ……」
あいつの背を見送って
勢いのままベッドに体を預けると
見慣れた天井が視界に広がる。
数日前、この部屋で触れ合った。
あの時、確かに感じたものがあった。
それを一方的に、全て忘れろと言われたようで
無性に腹が立った。
おれを受け入れたくせに
「今さら遠ざけようとしやがって……」
天井に向かってつぶやいた言葉は
静かに空気に消えた。