第六章 〜あのとき〜
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ジャッジの話によると
昔、ジャッジが血統因子の研究をしている頃
ある国から莫大な研究費の援助を受けていた。
その対価として
実験の実用化が成功し、息子たちの改造や
クローン兵の量産が成功した暁には
その国へ戦力の援助を行うこと。
そして、その遺伝子を受け継ぐために
ジェルマの王子がその国の王女と
婚姻を結ぶことを求められた。
そしてそれは、王位継承権の低い末子となら……
という条件で承諾していた。
説明を聞きながら
ヨンジの表情はみるみる怒りに溢れてくる。
「私もそんな昔の契約など頭から抜けていたが、向こうの王から娘が間もなく成人すると連絡があった。」
「知るか!自分の勝手な都合におれを巻き込むな!!」
説明を受けたヨンジは怒りのままに
自分の父へ詰め寄り、食ってかかる。
「待て。まだ決まったわけではない。どうしてもお前が気に入らなきゃ断ってもいいが、相手は今も大口の取引相手だ。一応の誠意を見せねばならない。」
「あ?誠意ってなんだ。」
「お前に会うために、わざわざこの海へ向かってきているらしい。」
「会いに行けっていうのか。」
「このまま船を出せ。なかなかの美人だそうだ。お前にとっても悪い話じゃない。」
「よかったじゃないか。お前は美人に目がない。」
他人事だと思いやがって。
隣のイチジをギロリと睨んでから
視線をそのまま父親へと向けた。
「父上の命令なら会うだけ会ってもいい。でもそれだけだ。結婚なんてしねェ。」
「……お前がその気になれないのなら仕方ないな。私も無理にとは言わない。」
「船は?」
「すでに準備をさせている。」
ヨンジは踵を返し、王の間を後にする。
「相手の出方によっては国を消しかねない。ヨンジが暴走しないよう頼んだぞ。」
「あァ。心配はいらない。」
イチジもヨンジの後を追った。
ーーーーーーーーーー
イチジとヨンジを乗せた船が帰ってきたのは
4日後の昼間だった。
その間、城内で待つ使用人たちの間で噂が広がり
”ヨンジ様がどこかのお姫様と結婚する”
との話題で持ちきりだった。
ミドリはその間に覚悟を決めていた。
ヨンジ様と私は主人と侍女。
それ以上の関係はないし、もう間違いは犯さない。
ヨンジ様の結婚を、きちんと祝福しよう——と。
イチジとヨンジを乗せた船が戻り
王子たちを出迎える使用人たちの横にミドリも並び
ヨンジを出迎えた。
「おかえりなさいませ。ヨンジ様。」
「あァ。」
なるべく目を合わせないよう、すぐに頭を下げた。
顔を合わせてしまったら
どうしても意識してしまうから。
「父上のところへ行ってくる。」
「お食事は?」
「おれもイチジもまだだ。」
「では、食堂にご用意いたします。」
「……頼む。」
ピクリとも笑わない事務的なミドリの態度に
ヨンジは違和感を覚える。
「結婚はどうなったの?」
「ヨンジ様、何かおっしゃってなかった?」
王子2人の背中を見送った後
他の侍女たちはここぞとばかりに情報を得ようと
専属であるミドリに声をかけてきた。
「特に何も聞いていないの。今王様に報告に行かれたわ。」
「ミドリにもわからないんじゃ仕方ないわね。」
結婚はどうなったのか。
ミドリが一番知りたいことだった。
王様にどんな報告をしているのかも
ただの”使用人”であるミドリには
それを知る術も、その必要もない。
覚悟は決めたが、気になって仕方がなかった。